白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
再び散華が目を覚ましたのは戦国の世から五百年以上も後の時代だった。

瞼に閉ざされた黒曜石の双眸に世界を映すのと同時に聞こえてきたのは大きな動揺と歓声だった。

「―――・・・?」

久方に見る人間は何故か此方を見ており、―――数拍後散華は『人間』と目が合っている事に気付いた。

・・・己は薙刀。
それ以上でもそれ以下でもない存在の筈なのに、何故人間と目が合う?

彼女の疑問に答える人間などこの場におらず、ただただ動揺と歓喜の声が広がるばかりで散華はより居た堪れなさを感じ取る。



「刀剣女士だと?」
「そのような存在はこれまでの報告には・・・!」

「素晴らしい!」
「実験は成功だ!」

「見目は所有者に似ているのか?」

「確かに・・・元所有者はかの絶世の美女と称される・・・」


『元主』のように俯く動作をすると、確かに視線が下になる。
視界に入った指を動かすと確かに自分が思った通りに動くそれに散華は静かに瞠目する。

・・・これは。


人の肉体を得た事実に思い至ると同時に散華の中でさらに疑問が湧き上がる。
何故、どうやって肉体を得ている?否そもそもあの方が死した時に自身も共に深い眠りについた筈なのに―――?


静かに動揺し混乱する彼女だったが散華の耳は優秀で、自身に向けられたものでは無い不穏な声を正確に拾った。

「双頭薙刀『散華』―――刀帳番号はどうするか。
否それより審神者達にも通達を出すか?」
「しかしブラック本丸の審神者に知られればより厄介な事になる。
まずは時期を見て―――」

「―――!」


審神者―――さにわ?とは、刀帳番号とは何だ。
知らない。そんなもの、わたくしは知らない。
誰、誰がわたくしの眠りを妨げたの。


散華は声にならない言葉がぐるぐると頭の中で回り、体を凍り付かせる。



これが最初の記憶。
わけが分からないまま、一振りの薙刀は歴史を賭けた戦いに身を投じる事になる。

20151010