白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
「それでは主様、行って参ります」
「おー、行ってこい行ってこい」
「・・・・・・主様、わたくし達がいないからといって羽目を外さないで下さい。
こんのすけを置いていきますので何かあれば、」
「だあああああっもう良いから!何でも良いから早く行け散華!
薬研達が待ちくたびれてんだろ!!」
「・・・姫さん、やっぱり大将を一人にするのは不安だ。
俺達の誰かが一人残った方が、」
「オイイイイイイ!!俺は一応大人なの!
てめーらから見たらガキみたいな年しか生きてねーけど、身の回りの事位ちゃんと出来るわ!」
「え、そんな事言ってるけど主、確か昨日、どわっ!?」
「いーから早く行ってこい!!
何度目だこのくだり!!」


ぜえぜえと肩で息を整える銀時の背中を白い目で見るのはこんのすけ。
主従関係である刀剣達と銀時だが、明らかに彼らの態度は主従というより親子関係に近い。
あまりにも自分の怪我に無頓着な銀時は平気で歩き回ろうとする。
人間というものはあまりにも脆い生き物だと知っている散華達から見れば、完治するまでは大人しくしていてほしいというのが最大の願いなのだが、悲しいかなその願いは叶えられそうにはない。


そんな刀剣達の想いを知っているこんのすけからしてみれば自業自得である。

このちゃらんぽらん、いい加減に審神者の仕事をしてくれないだろうか。
せめて鍛刀だけでも。せめて書類だけでも!


散華達が渋々ゲートを潜ってから数分後。
お目付け役がいなくなったのと同時に銀時はそれまで浮かべていた表情から厳しいそれへと一転させる。

「・・・こんのすけ、俺今から昼寝してくっから邪魔すんじゃねーぞ」
「は!?審神者様、もう何度も言いますがせめてっ・・・!!」


いつものように言葉を返そうとしたこんのすけだったがそれも銀時の目を見るまでの話。
彼と目があった瞬間、こんのすけの口は不自然に閉じられた。


「・・・・・・分かりました。どうぞ、審神者様のご随意に」
「おー」


そう言って彼の部屋に向かって去っていく銀時。
一方のこんのすけは彼の瞳に恐れを抱いていた。

あの時、一瞬だけ見せた銀時の赤い瞳に映っていたモノ。
普段はちゃらんぽらんな男だがとんでもない。
白夜叉という異名を持つ戦犯だと聞いていたがまさにその通り。

よくもまあ政府は彼を審神者に据え付けたものだと呆れと感嘆混じりに呟いた。



―――これが、散華達が遠征に出た直前直後の出来事である。



  ■■



銀時は政府の男からある指示を受けていた。
曰く、刀剣達がいない時を見計らって指定するコードを入力し、ゲートを潜れ。

行先は政府の一室であると言われている。


はてさて目的はノルマの催促か、唯一の刀剣女士である散華についてか。
ざっと考えてみるも心当たりが多すぎる。
銀時は五つ目を数える頃には思考を停止した。




それからこんのすけの声を聞こえないふりをしてゲートを潜り。
出迎えたのは散華を預けるとのたまった、あの時銀時と対面した例の男だった。


「・・・んで?もしかして散華を返せっていう催促?
つかさ別にゲートを潜ってこの部屋で話さなくてもこんのすけを通じて話せば良くね?
あいつ通信機能もあるって聞いたんだけど」
「通信手段は盗聴される可能性も考えて却下させて頂きました。
そして彼女・・・散華様の事についてですが別に返せなどとは言いません。
むしろ此方から彼女をお願いした身ですから、そんな事は口が裂けても言えませんよ」
「どうだかな」

時の政府を銀時は信用などしていなかった。
むしろ無条件で信用できる連中の頭を疑う。
何せ銀時は時の政府について何も知らないのだ、対面したのも一時間にも満たない時間だった。
その中で信じるに足りるというものを銀時は何一つ確信していない。

「・・・」

素早く出口と武器を確認する。
それに周囲の人間の配置も。


戦場から離れて約半月。
銀時は依然戦いの空気を、刀を振るう感覚を忘れてはいなかった。


「それで、今回お呼びした件ですが―――」


政府の人間に告げられたその言葉に、銀時の赤い瞳に浮かべられた剣呑な光が鈍くなった。

20160206