白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
加州が顕現してから早一週間。
その一週間で新しく顕現した刀剣男士はおらず、銀時の本丸はいつまで経ってもこんのすけと散華、薬研と加州の四人と一匹しかいなかった。

面倒臭がりという致命的な理由から戦力を増やそうという考えなど至る由も無かった。
正直、だったら何故加州を鍛刀しようと思い至ったのかさえ謎である。

そんな彼らは現在、資源確保の為四時間程かかる遠征に三振り揃って出ていた。


「お、此処にも資源が落ちてるぜ散華の姫さん、加州の旦那!」
「えーホント?」
「これだけあれば鍛刀も十分に出来るますね」
「後刀装な」
「刀装かー・・・あれも出ないものは出ないからなぁ・・・」
「端末に書かれた盾兵や重騎兵その他は資材を意外に使うからね・・・」
「資材はやはりあった方が良いですし」
「そういやその端末?を少しいじらせて貰ったが未来の絡繰りとやらは凄いな。
あらゆる情報が揃ってて驚いた」

薬研は苦笑しながらそう言うと、散華もつられて無表情を崩した。

「全国に散らばる審神者によって情報が揃えられているので信用、信頼度は非常に高い。
新参者の主様にとっては有難いものです」
「・・・ただその審神者達があらゆる欲求に対して爆発寸前だったけどな・・・」
「え、何それ俺初耳なんだけど」
「加州は器用そうですからすぐに端末も使いこなせそうですね」
「え、散華に褒められるなんて何か怖い。
持ち上げておいて下げようとしてない?
嫌だよ俺、魔の手で胴上げとか」
「?男性とは胴上げを好むと聞いたのですが違うのですか、薬研」
「むしろ何処情報だよ姫さん・・・」

魔の手で胴上げも嫌だが、担がれるのはもっと嫌だ。
散華本人はお市と同じ婆娑羅という事で嫌悪感は無い。
それ故、銀時や刀剣男士が戦慄する理由が全く分からない。

価値観による擦れ違いが悲劇を呼ぶのだが、悲しいかな彼女はそれを理解する日は・・・無いだろう。
新刃達が阿鼻叫喚、地獄絵図になる日もそう遠くは無い気がする。


薬研はその未来を描くと銀時と同様死んだ魚のような目になった。
その事に気付いたのは加州だけだったが指摘するは流石に憚れたのでそっと口を閉じた。



  ■■



銀時本丸の刀剣は合計三振り。
薙刀、短刀、打刀。
三振りとはいえあまりにもバランスが悪い。

脇差、太刀、大太刀、槍。
六振り―――一つの部隊が作るには出来るだけ多種多様であった方が良いだろう。

そう思っていたがそれ以外にも色々思惑はある。
戦力、内番、家事、そして一番の目的はまだまだ怪我人である我らが主の見張りも兼ねて、彼らは主に目的は内緒にして遠征に来ていた。

「誰を狙って鍛刀すっかねえ・・・」
「大太刀は戦力として申し分無しと政府で聞きましたね」
「そうねー後怪我を無視して歩き回る主を(手段問わずして)取り押さえてくれそうだね」
「槍はどうだ?刀装無視して本体に攻撃してくれるんだろ?」

薬研の台詞を皮切りにやんややんやと鍛刀する刀について論議する散華達。
しかし口を動かしているだけかと思いきやしっかり資材を集めている辺り抜け目の無い刀剣達である。

・・・それもこれも主である銀時がちゃらんぽらんな性格の所為である。
彼がしっかりしていない分、散華達がそれを補うしか無かった。
嫌な慣れである。


「・・・と、これで全部か?
もう時間だしそろそろ引き上げるとしようや」
「えー?もうそんな時間?」
「ではげーとを主様に開いて頂きましょう」

端末を取り出し、銀時と繋ぐ為に操作をする散華。


「―――主様ゲートを、」
『散華様ぁぁぁああああああ!!』
「っ!?」
「えっ」
「この声、こんのすけか!?」
『ゲートを繋ぎます故、一刻も早いご帰還を!
審神者様がっ・・・!』
「主?」
「大将がどうかしたのか!?」
『審神者様が一人で本丸を出てしまわれましたぁぁああぁああ!!』


端末から響くこんのすけの泣き声に絶句する散華達。
彼女の手から端末が滑り落ちなかったことが幸いか。

凍り付いた刀剣達を余所にこんのすけが繋げたであろうゲートの姿が瞬く間に現れる。


「・・・とりあえず」
「急いで本丸に戻るとするか」
「でもその前に言わせてくれない?」
「どうぞ」
「どうぞ」


「あの主は一体何を考えてるわけ!?」


「何も考えてないに一票」
「ああ日本一馬鹿な大将に違いねェ」


「もぉぉぉぉおおおお怪我も完治してないのにいいいいい!!!」


加州の悲鳴混じりの怒号が空に木霊する。
散華と薬研は深々と溜息を吐くだけで加州を止める素振りも見せなかったが、三者共に胸中は複雑なれど心は一つに纏まっていた。


曰く。

―――どんな手段を持ってしても必ずひっ捕まえてやる。


三振りの目は獰猛な光でぎらぎらと輝かせたまま、本丸へと続くゲートへと飛び込んだのだった。


20160123