白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
主の一言で緊張の糸が途切れ、その場はとりあえず解散―――に等となる筈が無かった。

「いかに主様の提案と言えどわたくし達は従いかねます」
「今はこんな風に落ち着いているように見えるかもしれないがな、大将にぶつけたい気持ちは山程あるんだ。
・・・今日は枕高くして寝られると思うなよ・・・?
「薬研怖い!顔が般若のようになってっぞ!!」

夢見が悪くて寝付けなかったというのに果たして枕を高くして寝られるのか。

おどろどおどろしい何かを背負い、銀時に詰め寄る薬研に散華は心中で突っ込んだ。
恐らく薬研の中ではもう昼間の事など忘却の彼方だろう。
それ位今日の出来事は濃かった。


「・・・加州清光、でしたか。
見ての通り、この主はどうしようもなく面倒臭がりで生気に満ち溢れていない、まるで駄目なお馬鹿さんなのですが」
「え、主ってそんな扱いなの」
「オイ散華!!俺は主だろ!何だその説明はぁぁあああぁああ!!」
「大将、話はまだ済んでねェぞ!!」

ぐいっ

「ぎゃああああああ!!」


どったんばったんと顕現されて間もない筈の薬研は当たり前のように膝十字固めを決めている。
その隣りでツッコミを放棄したこんのすけがカウントを取り、見事十を数えたところで薬研が手を放す。
しかし銀時は力無く倒れたまま動かない。まるでただの屍のようだ。


・・・薬研藤四郎、余程の鬱憤が溜まっていたのだろうか。
彼の横顔は妙に清々しい気がする。

「加州の旦那、俺は薬研藤四郎だ。
この本丸は出来てからまだ日が浅い。
人数も大将や旦那を入れてまだ四人だけでな、色々大変だと思うがまあ手を貸してくれると助かる。
で、旦那の隣りにいるのが」
「かの織田信長公の妹君、お市様が使用していた双頭薙刀の『散華』と申します。
どうぞ、よしなに」
「・・・あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね。ねえところでこの本丸、初期刀いないの?刀剣がこの三人って事は例の初期刀五振りはいないって事でしょ?」
「あー・・・うちは違うんだよ。
ほらよく言うでしょ?余所は余所、うちはうちって」

加州の問いかけに銀時は乱れた呼吸を整えながら会話に加わる。

しかしその内容は微妙に合っているような合っていないような表現である。
銀時にとっての初期刀は散華で間違いない。
しかしこの本丸は特殊過ぎて所謂『普通』とはかけ離れている。

「つか気になってたんだけど例の初期刀って何?」
「初期刀とは此方の加州清光様を初めとする陸奥守吉行様、歌仙兼定様、山姥切国広様、蜂須賀虎徹様の五振りを指します。
新人の審神者様は通常、この五振りの中から一振りを選んで頂いてからご自分の本丸に移動という流れになっております」
「え、俺知らねーんだけど」
「だからアンタも言ったでしょう、この本丸は違うんですって!
ご自分が言った事も覚えてないんですかまるで駄目な男、略してマダオ!」
「誰がマダオだあああああ!!!」

マダオって何・・・。

そんな疑問を抱いたが、結局散華達刀剣はこんのすけと銀時が繰り広げる不毛な言い争いを適当に流す事にした。

「俺この本丸に馴染めるか自身が無いんだけど」
「うち基本こんな感じだから、旦那もその内慣れる」
「わたくしが初期刀なのですが本丸生活は七日・・・いえもう八日目ですか。
薬研も顕現してそんな日が経っていないですし大丈夫です、慣れますよ」
「えええええ・・・」
「そうですね主様はまだ怪我が完治していないのでとりあえずヘンに歩き回っていたら捕獲して下さい。手段は問いませんので」
「え何それ物騒」
「いや俺からも頼む」
「・・・」

妙に目が据わった短刀男士と薙刀女士に加州は今度こそ沈黙した。



  ■■



加州清光、本丸生活一日目の朝。
小鳥が囀る音で目が覚めた清光はぐっと伸びをする。

深夜二時頃まで続いた騒動だった。
加州は顕現された自身の体をまじまじと見ながら昨夜の騒動に遠い目を向ける。

・・・顕現されてすぐにあんな騒々しい事なんてあるだろうか。否無い。
だけど不思議と嫌な感じはしない。
あの騒々しさは新選組にいた頃と似通っているからかもしれない。

「とりあえず、主に可愛いって思われるようにしないとねー」

加州はそう呟くとこんのすけが手配した内番服に手を伸ばしたのだった。

20151227