白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
・・・頭が痛い。

ずきずきと痛む頭に柳眉を寄せるのと意識が覚醒したのはほぼ同時だった。
散華は頭を押さえようと手を伸ばそうとしても何故か腕が動かない事に疑問を感じた。

・・・・・・何でしょうか、温かい何かがわたくしの腰に巻きついているような。

此処でようやく重い瞼を開け、漆黒の双眸を覗かせると其処には透き通るような白と肌色が見えた。


・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・・え、」

長い長い沈黙の後、やっとの思いで出した声は言葉でさえ無かった。
傾国級の美貌の顔(かんばせ)は唖然と言った表情を最大級に出していた。


一番最初に目が入った白色は夜着。
そして肌色は文字通り肌の色。・・・些か白過ぎる気がするがこの際無視しよう。

兎にも角にも、自分は今誰かに抱きしめられているという事で―――。


「・・・・・・!?」

その事実にようやく行き着いた散華の思考回路は停止する。


一体全体、自分が寝る前に、何があって、どうしてこうなった。
否その前に今自分に抱き着いているのは一体誰だ。
というより此処は何処だ、いやその前に同衾など許可した覚えは、


衝撃で頭痛も吹っ飛んだ散華は恐る恐る見上げると其処には白銀の髪と息を呑む程の見目麗しい相貌が視界に入りこむ。

「!!?」

銀髪の男など数える程しかいない。
ましてや彼女の視界に映った顔貌は彼女がよく見知ったものだ。


散華は必死に記憶を遡らせるが次郎太刀に捕まり、酒を飲まされてからの記憶は無い。
御神刀達が悉く勢揃いした酒宴だった。
其処までは覚えている。
だがしかし、抱きしめている彼もとい鶴丸国永がその酒宴に参加していた記憶もまた無い。


「ん・・・?」
「!?」

ぱちり。
そんな間の抜けた音と共に開かれた金無垢の瞳に今度こそ散華は思考と体の両方が凍り付いた。
黒曜石と琥珀色の視線が交わる。

散華は男女の関係について元主、お市を通じて何となくは知っていたが実際にそれを実体験するとは思っていなかった事もあり、物の見事に硬直していた。

「散華姫・・・?」
「っ!!」

びくり。
寝起き特有の、低く掠れた声。
大袈裟過ぎる程に体を震わせた散華に鶴丸は微睡んでいた意識をようやく覚醒させる。

「どうした、散華姫?」
「ゃっ・・・」

低く、甘い声に散華は咄嗟に交わっていた視線を逸らす。
俯く事で変わった視界は鶴丸の僅かな肌色と夜着のみ。
それに気付いた散華の顔が火照るのに時間はかからなかった。

「散華姫・・・」
「っつ、つるま・・・」

漆黒の髪の間から覗く白く小さい耳は赤く染まっているのを目敏く見付けた鶴丸は意地悪い笑みを浮かべる。

「ガラ空きだぜ、散華姫」
「ひぅっ」

すっと無防備に晒されたままの耳に唇を寄せると案の定、彼女の肩が過剰に反応する。
それと同時に不意に漏れた甘い声に鶴丸が更に行為を進めようとした、まさにその瞬間。


「散華、俺は」

がらり、

「鶴丸国永、散華を知らないか。
今日の朝餉の当番なんだ、が・・・・・・・・・、・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・げ」
「は、はせべ・・・?」


「っ鶴丸国永覚悟しろ!!散華に仇なす敵は斬る!」
「それ真剣必殺っ・・・うわああああ!?」


どったんばったん。

早朝から本丸に響き渡る激しい物音に起き上がった銀時が問答無用で長谷部と鶴丸に鉄槌をくだすまで後十分。

20151217