白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
新しく来た刀剣男士もとい薬研藤四郎に激しい運動さえしなければ本丸を歩いても良いと許可が出たので銀時は近侍を付けずに一人、式神に思うままの資材を鍛刀を一振り頼んだ後、そのままふらふらと探索ついでに邸内を散歩をしていた。


刀剣達が傷を負って帰ってきた時に必要になる手入れ部屋。
新たな戦力を作るのに必要な鍛刀部屋。
刀剣男士は四十振り以上存在するらしいので、未だ見ぬ彼らに合わせ、いずれ必要になるだろう空き部屋。

生活するのに必要な台所、風呂、大広間など。

また手入れや戦力増強に必要不可欠な資源を調達するには出陣、もしくは遠征が一番良い。
いくらかは時の政府が支給してくれるが出陣も遠征さえもしていない本丸に支給される量など高が知れている。

散華と薬研はとりあえず最低限のノルマはこなすべきだと何てこと無さ気に言うものだから銀時の方が眉を顰めたのは記憶に新しい。
怪我が治らないとこの二人は納得しないだろうからと、怪我が治ったら自分も着いていくと言った時の二人の顔は正直思い出したくない程怖かった。


結局、二人の研ぎ澄まされた神気という名の殺気に何とか耐えてこんのすけに聞いたら、あろう事かあの狐は溜息混じりに通常は最大六人編成の刀剣男士(刀剣女士)のみで送り出すのだと教わった。

・・・俺、主だよね?
なんで主従逆転みたいになってんの?
つーかあの毛玉もだんだん俺に遠慮が無くなってきたよね?

全速力で敬意がログアウトしている気がする。
元々主従関係なんて望んでいなかったけど実際にそうなってみると複雑な気分だ。

付喪神とはいえ二人の容姿は女と子供。
しかし人間よりも何倍も生きて世の中を見てきた事もあって達観している節がある。

戦いを忌避しているのではない。
ただあの二人の容姿が女と子供という時点で銀時の心が重くさせる。

本体は刀剣だと分かっていても心が着いていかない。
女が武器を持って戦場に行く事には抵抗は無い。
それはきっと"彼女"が一番の要因だろう。むしろそれしか考えられない。


ざっと本丸を一周した事で銀時は主の部屋だと割り当てられた場所に再び足を向けると、その部屋は庭を一望出来る、眺めの良い部屋だという事に気付いた。

「ったくあいつら・・・」

確かに、あの二人は素直に好意や親切を見せる神様ではないかもしれない。
どちらかと言うとさり気ない優しさを持って自分に接している。


「審神者様?いかがされましたか?」
「あ?・・・なんだこんこんか」
こんのすけで御座います。って、あ、ちょっと!?
こんなところで寝ないで下さい審神者様!!」
「うるせー狐鍋にすっぞコノヤロー。
・・・・・・ちょっと眠らせろ」


やいのやいの騒ぐ式神の声を余所に銀時はそっと瞼を閉じた。



  ■■



夢を見た。
夢だと思った。

自分は次元が異なる場所に本丸を構えていて、あの世界に置き去りにしてきたアイツ等がいる、なんて。

夢でしかないと思った。


『どうして、』
「・・・ろ」
『どうして、あの人を殺した』
「・・・・・・め、」
『何故、私達を選んだの』
「ゃ、め」
『何故、』
「や、・・・ろ」
『どうして、』
「やめ、ろ」

『 お 前 な ら 、 き っ と 助 け ら れ た 筈 な の に 』

「やめろ!!」

ああ、ああ。
瞼を閉じ、耳を両手で伏せても聴こえてくる。
どんなに拒否しても勝手に頭に入ってくる。

―――俺を、責めるように。


蒼みがかかった銀髪の女が泣いている。

紫がかった黒髪の男が天に向かって慟哭している。

長い黒髪を持った男は必死に歯を食いしばって痛みを耐えている。

体中の水分が無くなるのではないかと思う程涙を流し、声が枯れるのではと思う程哭き続け、掌の皮が爪で破れ血に濡れて。

噎せ返る程の硝煙と血の臭い。
枯れた大地で命の奪い合いをしてきた自分達は体も心も擦り減らし、たった一つの目的の元、刀を取った。

なのに。

目的の達成どころか、自分の手で摘み取ってしまった。
もうどんな顔をして仲間に、同志に、同門のアイツ等に会えば良いのか。


「忘れるな」


その罪を。
お前が犯した、その罪の証を。
お前の手は汚れている。

血潮で作られたその道を歩き続けろ、それがお前の償いだ。

―――お前に守れるものなど、もう何もねェんだよ!!


「あぁああああ゛あ゛あぁぁぁああ゛あ゛!!」

・・・掌に、刀の感触と、あの人を、斬った、感覚が、まだ、残って、



「大将!!」
「主様!!」


真っ赤な血に視界が眩む。
閉ざされた世界の中、差しのべられたのはつい最近見慣れた黒い手袋で覆われた華奢な手と小さな手の二つだった。

銀時sideでした。
飄々としていて先生を失った痛みはそう簡単には消えていないという話を書きたかった。
銀魂原作が、超展開過ぎて・・・。せ、先生・・・。


20151202