白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
桜がはらはらと舞い散る中、彼は現世に顕現する。
藤色の瞳が一人の男を映すのと同時に男は己を呼び出した審神者である事を認識し、堂々と名乗りを上げた。

「よお大将。俺っち、薬研藤四郎だ。兄弟ともども、よろしく頼むぜ」
「・・・・・・・・・う、」
「う?」
「うおわああっっ!?ま、マジで出てきた!!
おい散華、コイツが例の刀剣男士か!?間違いないよな!?ま、まさかスタンドなわけねェよな!?」
「主様、落ち着いて下さい」

わあわあと絶え間なく叫ぶ男が口にした名前。

その名前にふと脳裏に過ぎったのは一振りの薙刀。
反射的に銀髪の男の視線を辿ると其処には遥か昔、かつて魔王と称された男に所有されていた頃を思い出した。

自身は第六天魔王に。そして彼女はその妹君の、第五天魔王に―――。

「・・・・・・散華の姫さん・・・?」

空気に霧散した、己の震える声。
・・・そうだ、自分と彼女は過去に出会っている。

百合の花に囲まれた傾国の美女に付き添うヒトではない、己と同種の存在。
主である薄幸の少女に存在を視認されず、声が届かない事も知っているはずなのに。
ただただ付き従う付喪神。

木々に紛れ、そっと妹の様子を見守るかつての主と共に薬研も少女たちを見ていた。

「・・・その刀とその容貌は、・・・もしかして、本当に薬研藤四郎ですか?」

己の本体を黒曜石の瞳で見る散華に口角を上げる。

彼女と主であろう男の台詞からにして恐らくまだ新しい本丸である事と、『薬研藤四郎』という刀はどうやら最初である事は分かった。
まさか戦国の世以来会っていなかった存在、『散華』に再び出会う事になるとは思わなかった。

同じ織田の刀。
主は違えど、過ごした時は同じ。


「また会えて嬉しいぜ散華の姫さん」



  ■■



「最初の鍛刀で薬研が来てくれたのは幸いでした」
「そうなのか?・・・というより何で大将は布団に入ってるんだ?
体調不良か?それとも怪我か?」
「主様は少し前まで大怪我を負っていて、今療養中の身なのですがこっそり抜け出そうとする事が多々あるので。
薬の知識にも長けた薬研が来てくれてとても心強いです。
わたくし一人だとどうしても限界があり、最悪手荒な手段で布団に戻って頂く事もありました」
「おかげでなかなか完治しなかったんですけど。
俺の所為だけじゃないよね、半分位は散華の所為だよね!?」
「大将、何言ってるんだ。
散華の姫さんは前の主同様物静かな性格と立ち振る舞いだった筈だ、ちょいと誇張しすぎなんじゃないのかい?」
「騙されてる!!お前騙されてっぞ!!
後さっき本人も言ったよね手荒な手段を使ったって!!
お前の耳は日曜日ですかコノヤロー!!」

確かに見た目と言葉遣いは基本的に物静かだけど!
時々物騒な発言をするからこっちの心臓がヒヤヒヤしてすっげー心臓に悪いわ!
つーかこの前「是非も無し」って呟いた時のあいつの目、氷みてーに冷たかったんだけど。


「とりあえず大将、俺っちに姫さんの言う怪我の具合を見せてくれ。
大将に何かあったらいけないからな」
「オイ何コイツ、ガキの姿をしてるくせに何でこんなに男前なの」
「それが薬研ですから」
「それ答えになってないんだけど」

銀時にニッと笑いかける薬研に銀時は思わず散華に問い掛けるが、変わらず彼女の台詞は冷めていた。
旧知の仲の筈なのに何故こんなに淡々としているのか。

ねえ長い間離れ離れだったんだよね?
もうちょっと感動の再会みたいなノリは無かったわけ?
あれか神様だから其処等辺は気にしないみたいな?


「・・・とりあえず刀剣男士って・・・その薬研?みたいに皆それ位の見た目な感じ?
流石の俺でも気が引けるんですけど。
むしろ俺が行った方が良いような気がするんだけど。
そっちの方が気が楽だわ」
「主様、それはわたくしも薬研も反対です」
「俺っちがこの姿なのは短刀だからだ。
短刀は皆俺っち位の年齢の姿で逆に姫さんみたいな薙刀や太刀は大将、もしくはそれ以上の身長を持つ刀剣男士もいるから心配すんな」

即答で返ってきた言葉に銀時は胡乱気な視線を二人に向ける。
納得しているのか理解しきれていないのか。

薬研はまだまだこの本丸について、この主に対して何も知らない。
ましてや刀剣『男士』のみとされていた筈なのに『女士』の散華が顕現しているのかさえも知らない。


・・・後で姫さんに詳細を聞かないとな、と心中で零したのだった。

20151108