白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
そんなこんなでこんのすけにあらかたの審神者についての説明を受けた後。
こんのすけに凄まじい仕打ちをした事もあり、荒んだ声と目で「あれだけ動けるならば鍛刀部屋にも行けるでしょう?」と言われてしまった。

散華も心中でどれだけ回復能力が高いのかと最早驚きを通り越して呆れていた。
若いからなどという問題ではない。
後一ヶ月は休養が必要だろうと思っていただけに拍子抜けだ。

散華は一体何の為に見張っていたのかよく分からなくなった。
ああ早く誰でも良いから刀剣男士に顕現して貰ってこの主を叱ってほしい。
・・・あ、でもわたくし誰が顕現出来るのか知らない。

検査ばかりで碌な情報を貰っていなかった事に気付いた散華は人知れず嘆息する。
それと同時にこんのすけの指示の元、資材を手渡す銀時とその妖精が視界に映った。

(・・・オール50ということは・・・資材の数からにして短刀ですね)
「おーい散華、何か二十分後に出来上がるみてーだし、ちょっと一休みすっぞー」
「はい、分かりました」

銀時の声に散華は颯爽と歩き出したのも束の間。
散華は唐突に今、何かが脳裏に過ぎった。


―――短刀。
そういえば織田にいた頃に、確か。


遠い昔。
かつての主に己の本体を振るわれていた頃、自分と似たような存在に会った気がするような。

ふと、藤色の瞳が脳裏に過ぎる。
それと同時に金無垢の瞳も。


「・・・・・・?」
「おーいどうした散華?なんか見えたか?」
「・・・はい、主様の爆発した頭が見えます」
「人のコンプレックス突いて楽しい?なあお前見た目と性格が一致してないって言われない?」
「本当の事を言ったのに何故怒るのですか」
「尚悪いわ!!」
「冗談ですよ」

ぎゃあぎゃあと一人騒ぐ審神者と無表情なのに声音だけは楽しんでいるかのような刀剣女士。
こんのすけは深い溜息を吐きつつ二人の茶番をそのまま眺める。


ありとあらゆるものを縛られ、検査の毎日だった彼女にとって今回の件は僥倖だっただろう。
式神の身故に時の政府に逆らう事は許されないがちゃんと心というものは存在する。
身勝手な人間の研究により勝手に顕現され、理不尽な扱いを受けていた彼女を聞いた時もこんのすけにはどうしようも出来なかった。
しかし―――まさかこんなに早く転機を迎えようとは思わなかった。


「・・・良かったですね、散華様」
「え?」
「あ?なんか言ったかこん太」
「こんのすけです!!何度言ったら分かるのですかこのくるくるパーの審神者様!!」
「うるせえ!!おい散華やっぱりこいつ狐鍋にすっぞ!!」

がしっとこんのすけの尻尾を再び鷲掴む銀時の目には物騒な光が宿る中、散華はいつも通りだ。

「狐って食べられるのですか?」
「ああああああああああ!!」
「狐も狸もイヌ科だし何とかイケるだろ!!
おらあああ包丁は何処だあああぁぁぁあああ!!」
「あああああああ!!!それだけは!!それだけはあああああ!!!」


鍛刀部屋にてこんのすけの絶叫が響き渡る間も鍛刀完了までのタイマーは時を刻み続ける。
鍛刀完了を告げる音が鳴るまで彼らは騒ぎ続けたのだった。

20151104