白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
「私、審神者様のサポートを勤めさせていただきます、式神のこんのすけと申します!」
「狐が喋るなんて銀さん一ッ言も聞いてねェんだけど!?
つか式神ってなんだ!!ヌイグルミ!?ヌイグルミなのか!?オラアアア電池は何処だァ!!」
「ぎゃあああああああ!!!」

どったんばったん。
とても怪我人とは思えない動きでこんのすけに詰め寄り、尻尾を鷲掴む主の姿に散華は遠い目をする。

傷の治りもただの人間にしては早い方だがあまり無理はしないでほしい。
切実に。


"元主"やその兄君達とは違い、『闇』の者ではないのは明白。
なのに彼に面影を求めそうになるのを彼女はそっと堪える。
傾国の美貌に憂いの表情を浮かべ、瞼を伏せたのは一瞬。
己と同じ、烏の濡れ羽色の髪を持つ元主を脳裏に浮かべたのもほんの刹那の事。

「・・・」


さて。
盛大に勘違いしている主にどうやって正気に戻って貰おうかと散華は無表情の下タイミングを見極める。


五分後。
何とか主の気が落ち着いてきたのを頃合いに散華はようやく口を挟んだ。


「―――主様、先程この狐が申しました通り、式神のこんのすけです。
機械等で動いているわけではないのです」
「し、式神?ホントにスタンド的なヤツじゃねェの?」
「逆に問いたいのですがすたんどって何ですか?」

こてりと小首を傾げた刀剣女士に銀時は天を仰ぎたくなった。

・・・そういやコイツ、片仮名は分からないんだっけ?


「・・・いや其処はスルー・・・じゃねえな。そう、流せ。もしくは感じろ」
「全然わかりません」
「いーから。あまり深く掘り下げなくても良いから!
つか話が進まねェから!んで!?お前、名前何だっけ?こん、・・・なんだっけ?こんこん?」
「こんのすけです!!覚えて下さい、そんな難しい名前ではないでしょう!?」
「分かったよこん兵衛」
「分かってない!!分かってないでしょう!しかも何かうどんとか蕎麦を彷彿させる響き!!」


地団駄を踏み、耳と尻尾を逆立てながら喚くこんのすけに散華は物珍しささえ感じさせた。
現世にいた時、果たしてこんのすけはこんな風に感情を露わにしていただろうか。

・・・まあとりあえず。

「・・・主様、話が進まないのでいい加減にして貰えますか?」

じゃきっ


小刀を急所に突きつける事で動きを完封してみせた己の初期刀に銀時は口角を引きつらせたまま無言で降参したのは―――言うまでもなかった。


「では説明はこのこんのすけにお任せしましょう。
わたくしはお茶を準備して参りますので、・・・主様」
「ハイ」
「くれぐれも大人しく、大人しくお待ち下さい。
まだ首と体がお別れなどしたくはないでしょう?
「そ、ソウダネ(二回言った)」
(大事な事だから二回言った)

銀時とこんのすけの心中は共通した。
真顔で審神者に暗殺予告の如く告げる刀剣女士が怖い。

一方の審神者を見るとこんのすけはまるで油が切れたからくり人形みたいだと、ぜえぜえと息を切らす中そう思った。



  ■■



「主様お待たせしました、大人しく、大人しく待っておられましたか?」
「おいお前は俺のかーちゃんか?」
「わたくしは刀剣ですので子供は出来ません。
というより仮にわたくしの子供でしたらもっと髪の毛が真っ直ぐな筈です」
うっせえええええええ!!
俺だって好き好んで天パやってんじゃねェんだよ!!ヅラといいお前といい何でみんな同じ事を言うんだっつーの!!
くそ今に見てろ、いつか俺は誰もが羨むサラサラストレートヘアーになってみせる!
その時は覚えてろ!!」
「すとれーとへあーとは何か分かりませんが何となく察しました。そしてヅラとは一体誰の事ですか」
「ムカつく!お前無表情やめろ!
そしてヅラはヅラだ!」
「では嗤えば良いのですか?
わたくしあまり嗤った記憶はあまり無いのですが」
「おーい今笑うじゃなくて嗤うって言ったよね?
誰だよ神様に余計な知識を与えたヤツ、ちょっと俺が介錯してやるから!三百円やるから出て来てくんない!?」
「何故その金額なのですか」

「・・・貴方方!先程から一歩も話が進んでいない事にお気付きですか!?
いい加減に説明再開しますよ!とっとと話して出陣でも遠征でも鍛刀でもしちゃいましょう!いや!寧ろしろ!!」


くだらない話を文字通り一刀両断したこんのすけの目は目が据わっていた。狐なのに。
米神に血管が浮き上がっていたのを銀時は見逃さなかった。

20151031