白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
坂田銀時は第一級戦犯として牢に囚われていた時、所謂折檻の時間があった。
両手両足を封じられ、呻き声一つさえもあげずただ終わるのを待っていた彼だったがそれを別の形で終わらせたのは例の首切り役人だった。
後半はさておき。

兎にも角にもその折檻の所為で彼は満身創痍で思うように体を動かす事さえもままならない生活を余儀なくされていた。
散華もそれを知っているからこそ必要以上にこの本丸にて動き回らないようにと注意していたのだ。

そしてただ横になっているのも暇だろうからと、簡単に審神者やらこの屋敷もとい本丸について説明をしようと彼女は主の元にいた。
碌な説明を受けていない彼の処遇に散華は何度目かになる溜息をそっと飲み込む。


「そういや、なんやかんやで此処にいるけど此処何処?」
「時の政府から貴方に任された屋敷です。
通称、本丸。
この部屋は主の部屋なので、いわば貴方の寝所兼執務室でもあります」
「え、ちょっと見ただけだけど凄く大きいよねこの屋敷。
え、俺が主ってことは此処俺の家?」
「そうなりますね」

淡々とそうのたまった散華に銀時の叫び声が本丸に響き渡る。
驚愕で硬直した主をそのままに散華は説明を続けた。


「審神者の仕事にはいくつかあります。
『鍛刀』『刀装』『手入れ』等がそれに該当します」
「もうちょっと噛み砕いて言ってくんない?」
「・・・・・・主様の傷の事もありますので鍛刀は最低限の資材でいきましょうか」
「ねえちょっと俺の質問に答えてくんない?」
「とりあえず鍛刀部屋に行かないといけませんね。
主様立てますか?」
「オイコラ」

銀時の眉間の皺に気付いた散華は流石にこれ以上彼の琴線に触れたら体に毒だと思い直し、銀時の要望通り質問に答えようと居住まいを正す。


「・・・そうですね。とりあえず何から話しましょう、」

「お呼びですか、審神者様!」

散華がふむ、と思案気に首を傾げた瞬間、突如入った第三者の台詞に銀時と散華は一時停止した。


・・・え、今の声って、誰?

散華ではない。
彼女の声は確かに女性特有の高い声だがこんな子供のように高い声では無かった。
では、いったい誰なのか。


「・・・ちょ、ちょっと待て。
今、誰の声?」
「・・・・・・」
「ちょっと無言は止めてくんない!?
おい散華お前この屋敷?について何か知ってんだろ!?」
「・・・・・・主様、何故そんなに声が震えているのですか」
「こ、これはあれだ。武者震いってやつだ」
「・・・そうですか」
「つかおいお前俺の質問に答えてほしいんだけど。
ま、まさかこの屋敷ってスタンドがいr」

「スタンドではありません!!」

「ひっ、お、おいまた声がしたぞ!!
俺達しかいない筈だよな、なあ散華頼むそうだと言ってくれ!!」


散華は何となく自分の主が所謂怖がりなのだなと悟り、懸命にもそれを声に出すような事はしなかった。
視線を何気なくズラすと目的のモノは、いた。
・・・しかし何故そんな分かりにくいところにいるのか。

からかっているのだろうか、そうなのか。

散華はそんな事を思いつつ口を徐に開いた。

「主様、この声の主はちゃんといますよ」
「嘘つけ!!何処にもいねえじゃん!!
いるならちゃんと俺に見せてみろ!」
「此方です」

ひょい、と差し出された茶色のそれ。
銀時の赤い双眸が丸くなり、それを凝視する。

「・・・・・・何その毛玉」
「お言葉ですが毛玉では無いですよ、残念な事に」
「・・・確か政府が現物支給で食料届けてくれるんだったよね?
もしかしてこれ?血抜きから始めろって事?
つーかこれ狐だよね、狸鍋熊鍋鹿鍋は聞いた事あるけど狐鍋ってイケんの?」
「わたくし、人の身を得たのはつい最近の事なので食事事情は疎いのでお答えしかねます」
「え、そうなの?」


「ちょっ誰が毛玉ですか!散華様は無表情ですが貴女実は楽しんでませんか!?
ってぎゃんっ!!」
「しゃ、シャベッタァァアアアアァァアア!!!」
「ぎゃああああああ!いたっちょっ痛い!痛いです尻尾掴まないで!!
えっな、なんで振り被ってんですか審神者さっ・・・ああああああああああ!!!」


がっしゃあああああん


狐もといこんのすけが話せるという事実に容量限界を突破した銀時は、こんのすけの台詞通り力の限り腕を振り被ったのと同時に襖を突き破る勢いでこんのすけをぶん投げる。
散華はというと、主である銀時に何も言わずに此方側に放り込んだのを理由に内心でいい気味だとほくそ笑んだのだが、それは誰も知らない。

20151025