「遥ー!たっだいまー!・・・・・・・・・遥?」
しん。
家に帰ればいつも扉の前には白い髪の妹がいる。
そう思って開けた自宅の玄関のドアの先には誰もいなくて。
此処でようやく赤毛の兄は違和感に気付く。
―――妹は何処に行った?
「―――ッッ!!」
バタバタッ
□□
「・・・え、遥って家出してきたのか?」
「え、今更?」
ホットミルクを少しずつ飲む遥に目を丸くする快斗。
「・・・おにーさん心配してんじゃね?」
「どうだろ。今頃ある事に気付いて発狂していると思うけど」
「・・・?」
□□
『荻ぃぃぃいいいぃぃ!!大変だ!俺の毛がない!!』同時刻。
半狂乱で電話するのは遥の兄であり、その電話の相手はややうんざりとした表情でいつも通りに言葉を返していた。
「何馬鹿な事を言ってるんだ。
今日一日お前といたがお前の毛はちゃんとあった」
『そっちじゃない!!俺のコレクションの毛が!!無い!!
きっと泥棒が入ったんだ!!』
言い分は正しいが何かがズレている。
荻、もとい荻野邦治はそう思いつつ一人の少女を脳裏に浮かべた。
「・・・泥棒なら他に盗むものがあるだろう。というより遥はどうした」
『盗むものなんて毛と遥しかいないだろ!!
ていうか遥もいないんだけどこれって誘拐!?家出か!?
どう思う荻!!』
「―――早く言えこの馬鹿!!
毛はともかく遥がいないのは問題大アリだろうが!!」そんな会話があった事をかの白き元番犬は知らない。
そしてその赤毛の兄も知らない。
彼女こそが彼が愛してやまない大量の毛のコレクションを全て破棄した犯人である事を。
□□
「は?髪の毛?」
「毛フェチだからね。当然、私の事なんて二の次でそれこそ血眼で探すんじゃないかな」
「いや其処は妹のオメーだろ」即座に突っ込む快斗の言葉にも怯まず、遥は淡々と首を振る。
あの兄は私よりも髪の毛を選ぶ、筈だ。
出来たら裏声を上げて泣くにーにの声を聞きたかったがやむを得まい。
・・・荻野警部辺りに追い詰められてくれないかな。
物騒極まりない思考に勘付いたのか、快斗の背筋にぞくりと悪寒が走り抜ける。
「っ!!(え、何だ今の寒気・・・)」
「・・・今のにーになんて、妹の心兄知らずだよ」
ぷくり、と頬を膨らませてそう呟く遥は誰がどう見ても、拗ねてる子供という印象にしか映らなかった。
「・・・お金云々は家を出る時に持ってきたから大丈夫。
だけどねそれとは別にひとつ問題があって・・・快斗、ちょっとお願いがあるんだけど」
「へ?お願い?」
真顔で此方を見る遥の雰囲気は何というか迫力がある。
思わず快斗も背筋を伸ばし何を言われるのかと身構えていたのだが。
「この家、絵本ある?」「・・・・・・」
予想の斜め上の台詞に快斗は漫才みたいにひっくり返りそうになったのは余談である。
お兄ちゃんは我に返るまで取り乱しています。
そして次回から原作沿い。
20151107