アイのシナリオ | ナノ

「えーと因幡さん・・・」
「遥で良いよ」
「え?良いの?」
「苗字で呼ばれるのって慣れてないから。
紛らわしい、っていうのもあるだろうけど」

真っ白な睫毛に縁どられた苺色の瞳から感情を読み取る事は出来無い。

ちらりと一瞬横目で彼女の姿を盗み見る。

・・・改めて見ると本当に白い。
純白の髪と白い肌は己のもう一つの姿を連想させる。



風邪で三日三晩魘されていた少女を看病し、回復した本人から直接聞いた名前は因幡遥。
歳は自分と同じ位、らしい。


アルビノという点からちょっと探せばすぐに素性が分かると思ったが清々しい程情報が出てこない。
もしかして偽名かとも思ったがその可能性も薄そうだ。

此処までさっぱり出てこないという事は意図的なものに違いないだろうが、一体何故なのか。


「紛らわしい?」
「・・・兄と同じだからね。
区別くらい付けないと分からなくなるでしょ」
「ふーん・・・?」


その言葉に引っ掛かりを覚えた。
なんて事無い言葉の筈なのに思考の琴線に何かが触れた。


まるで、彼女とその兄しか世界が成り立っていないかのような。
俺達とは違う世界に生きているような。
そんな、漠然とした違和感。


「質問は終わり?」
「あ、後一つだけ!遥って学校は何処に通ってんの?」

何て事無さ気に放った言葉。
自身と同じ位の年頃ならば高校生といったところか。

そう思って尋ねたのだが目の前のアルビノ少女は一瞬軽く瞠目した後、憂いを帯びた色が紅玉に灯る。


(―――え?)
「・・・さあね」


その時の表情と瞳が彼の脳裏から離れる事は無かった。



  □□



高校に限らず小学校、中学校といった人間と否が応にも関わらざるを得ない場所に遥とその兄は縁がなかった。
つまり因幡兄妹は学校に通った事が無いという事を意味する。

百歩譲って兄はまだ許されるだろうが遥は聴覚系の能力だ。
聴覚系は半ば強制的にあらゆる情報が入ってくるから体調不良なども起こしやすい。

他にも色々な理由はあるが、正体が明るみに出てしまう可能性もある為、同年代の人間が皆無な生活を今まで過ごしてきたのだ。


「なー今更だけどお前家に帰ろうとしねーの?」
「・・・むしろ帰してくれるの?
私一応君の裏の仕事を知っているんだけど」
「内緒にしてくれんだろ?」
「・・・君は警戒心というものを持つべきだね」
「大丈夫大丈夫!これでも人を見る目はあるんだぜ?」

快活に笑う彼に思わず半目になるのは仕方無いだろう。
本当に犯罪者かと思う位彼は眩しい。

長さが不揃いの白髪を手で払い、遥は溜息を一つ零す。

(一応私は"番犬"なんだけど・・・まあ良いか。
別に捜査二課から要請されたわけじゃないし)


怪盗キッドの担当は警視庁捜査二課だ。
膨大な情報からそれを得ていた遥だが別段何かを起こそうとする気は毛頭ない。

正義感溢れる兄ならまた違っただろう。
しかし此処にいるのは因幡遥一人。
何もしないのは大の得意だ、一番輝くのは室内だと断言出来る程のインドア派である。


("声"から察するにしばらく置いてくれるみたいだしお言葉に甘えよう。
仮にも家出中。にーに達の動向も気になるし・・・やる事は山積みかな)

懸念材料なんて掃いて捨てる程ある。
正直面倒臭い事この上ないがやらない理由にはならない。

だが遥は自身の体力が極端に無い事を自覚している。
故に。
その量の多さに辟易したのは言うまでもない。


のらりくらりと会話するうちに主人公の居候先が決定。
その時お兄ちゃんは。

20151107