アイのシナリオ | ナノ

黒羽快斗、十六歳。

アルビノ少女を家に保護したのはつい昨日の出来事であり、未だかつて無い動揺が彼を襲っていた。



少女を見付けたのは本当に偶然だった。

月光に反射して輝く白い髪の所為で一瞬老人かどうか判断しかねたが服装などからそれは無いと思い直して、音もなく彼女の顔(かんばせ)を拝もうと声をかけた。

ただの気まぐれ。
ただそれだけの事だったのに、徐に頭を持ち上げられた事により白髪の間から覗く瞳に一瞬呼吸を忘れてしまった。


夕焼けよりも赤く、炎よりも紅いルビーの瞳。
至高の紅玉と思えるようなその双眸に白い罪人は息を呑む。
次いで衝動的な感情が彼を駆り立てる。


自分を見ている筈なのに誰かを重ねているようで実は誰も映っていないかのような。
危うい一面を持ち合わせた年齢不詳の少女めいた女性に何か言おうと白い罪人が口を開いた、その瞬間。



「・・・かいとう、きっど」


感情が見えない、無の表情で。
己のもう一つの名を、その唇で紡ぐ。

ただそれだけの行為にひどく高揚した。



白髪赤目。
それが意味するものは先天性色素欠乏症の特徴。通称アルビノの証。
汚れを許さない純白。


(まさかアルビノを実際にお目にかかれるとはな・・・まさに人生何が起こるかわかんねーもんだ)


そうそれこそ何処かの名探偵みたいに。自分みたいに。

心中で自嘲めいた笑みを一瞬浮かべ、一歩少女に近付く。


こつん。


足音が響く。
一方の少女は微動だにしない。
警戒心が無いのだろうかとふと思ったが紅玉に宿る光は警戒の色だ。

彼女が逃げないギリギリのラインを見極め、縮めた距離。
月光が色素を持たない肌の色がより白さを際立たせながら、彼女を見る。


―――それが白き罪人と白き番犬の邂逅の瞬間だった。



  □□



(まさかその後、何の前触れもなくぶっ倒れるとは思わなかったけど・・・)

流石に年頃の少女をそのままにするわけにもいかず、とりあえず家に連れ帰ったまでは良い。
勿論、色々世話になっている寺井には大反対されたが其処は割愛。


「(仕方ねーじゃん、見付けちまったんだから。
怪盗をしてるオレだけど流石に病人を放置する程落ちぶれた覚えはねーよ)
おーい・・・大丈夫かー?」

スポーツドリンクや体温計を片手に持ち、快斗は軽くノックすると音を出来るだけ立てぬようにベッドに眠る少女を見下ろした。


「・・・っ・・・」

アルビノ特有の白い肌は熱によって赤く染まっており、ぜえぜえと息を荒く繰り返す少女は何処からどう見ても大丈夫そうには見えない。

無言でそれを見やり、病人にヘンな真似は出来無いと自身のぐらついた理性に再度鍵をかける。
高校にて自分の行動を省みるととても信用出来ないと某幼馴染に即答されそうだが敢えて置いておき、温くなった冷却シートを張り替える。
次いで首筋など比較的無難であろう体の一部をタオルで軽く拭いていくと途中で少女が反応した。

「っ・・・ぁ・・・?」
「!!」


一瞬瞼が持ち上がる事によって晒される一対の紅玉。
熱によって潤み、弱々しい光が灯ったそれに快斗は硬直する。

己の座右の銘である筈のポーカーフェイスさえも剥がれ落ちた。


「だ、れ・・・」
「え、あ、オレは、」
「っげほげほっがはっ」
「お、おいっ大丈夫か!?いや大丈夫じゃねーよな!?」
「ぜえ、ぜえ・・・もしかし、て、きみ、」
「?」
「しにがみ?」
「発想が瀬戸際すぎるわ!!」


息も絶え絶えに放った言葉がまさかのあの世からの遣い扱いされるとは思わなかった。
病人という事も忘れて全力で突っ込んでしまったが後悔してももう遅い。
彼女は咄嗟に耳を塞ぐという行動に出た事で更にゼロに等しい体力が低下したらしい。
よりしんどそうに荒い息を繰り返している。

「わ、わり、」
「・・・・・・風邪菌で死ねる・・・・・・」
「・・・とりあえずこれ食べて薬飲んで寝ろ」

名前も年齢も、どうしてあの公園にいたのかも分からなかったがまずは風邪を治す事が先決だ。
快斗は依然理性と戦いながらの看病に勤しむ事になるだろうと漠然と直感したのだった。


というわけで殆ど衝動的に書いてみました。
快斗と遥が好きなんです、でも後悔してない。
出来る限り突き進んでいきまーす。

20151107