アイのシナリオ | ナノ

人工授精により生み出された生命イノチ
一般的な家族とは違い、望まれて生まれたわけではない。ましてや愛情を注がれて育てられたわけではない。

必要だからと、ただそれだけでこの世に生を受けた存在はなんて虚しいのか。

両親の顔も知らない。
優しく頭を撫でてくれるのはたった一人の兄だけで。

友愛なんて知らない。親愛なんて知らない。恋愛感情なんてもっと知らない。


周囲の重圧に彼女の心は限界だった。
逃げ場所は同じ境遇の兄の隣りだけで、その兄も仕事で一緒にいられない時間が多くなった。

訓練訓練鍛錬訓練訓練。
気が狂いそうになる直前に彼女は"箱庭"から我武者羅に飛び出した。


―――それが今から二時間前のこと。


彼女は一人、夜の公園に設置されているベンチの上に蹲っていた。
頭の中で考えているのはただ一つ。


―――これからどうしよう。


行く宛なんて無い。
そもそも彼女の居場所は最初から一つしか用意されていなかった。
当たり前だ、無難に"データ"を採取出来る存在しか必要とされていたのだから。
其処に"自分"という人格は求められていなかった。

それがなんと寂しくて辛いことか。


「・・・・・・」

恐らく兄は探しに来てくれるだろう。
いつも通り、事件を解決したらすぐに絵本を持って眠れない私の元に来てくれる。
自分だってくたくたに疲れている筈なのに、

「・・・・・・」

今日は沢山走ったりと運動したからきっと明日は熱が出る。
だから早く安全な所に移動しないといけない。
なのに、どうして、


「・・・動けないんだろ」


自分の周りに何が起ころうとも私は興味関心は抱かなかった。
だからこそ私の心なのに私は理解出来ない。


誰か答えを教えて。
私はどうしたら良いのか、私は一体何を望んでいるのか。


「―――そんな所に蹲ってどうしました、お嬢さん」

「・・・・・・」


若い男の声。
少女はその声に反応すると同時に情報を正確に、明確に読み取った。読み取ってしまった。

名前年齢誕生日血液型身長体重、―――その声の持ち主がつい先程まで何をしていたのか。


彼女の中の"番犬"が"それ"に反応してしまったのは仕方が無い事で。


ゆっくりと俯いていた顔を持ち上げる。
夕焼けよりも赤く、血のように紅い瞳に男の姿を映す。

―――其処には自身の髪と同じ、白い罪人が微笑を浮かべ佇んでいた。


20151107