アイのシナリオ | ナノ

「・・・野羅?」
「そうっス!貴女と同じです」

冗談など一切含まれていない瞳。
遥は胡乱気な瞳で夏輝と名乗った少女を見る。


「同じ、ね」
「はい。遥さんは声で相手の心の声を聴き取れるんですよね!」
「何のことかな」
「とぼけないで下さいっス!
能力が開花されたのは四歳の時だと調査済みっス!」
「・・・」

・・・あ、疑ってたわけじゃないけど嘘はついてないみたいだ。

"能力"のことは国家機密であり、存在そのものが秘匿扱いされる。
どんな親しい人間であっても迂闊に話せば其処から漏れる可能性だってあるので、彼女が話した事実は知る人ぞ知る真実で間違いない。


その事から遥は一つ確信した。
どうやら彼女が言う自分達と遥が同族であり同属というのは本当らしい。
遥はその"能力"により嘘を吐いていたら雑音が混じる為、すぐに嘘を見抜ける。

機械なんて必要ない、まさに嘘発見器と言ったところか。


―――名前は三澤夏輝。女。十六歳。身長155cm。触覚系鑑識能力者。手フェチ。
もう一人は篠塚弥太郎。男。十九歳。身長178cm。嗅覚系鑑識能力者。匂いフェチ。

「何で君達が私を何で勧誘?
とりわけ珍しい能力でもないでしょ・・・・・・、・・・・・・」

ふんふんふん。

「・・・・・・ねえ三澤夏輝」
「何スか?あ、名前分かるんスね!」
「うるさいそういう"音"がしたんだよ!
ていうより何とかしてくれない君の身内でしょ」


ふんふんふんふんふんふん。

背中の半ばまで伸ばされた白髪の一房をなんの断りも無しに匂いを嗅いでいる弥太郎に青筋を浮かべた遥。
普段感情表現を表に出さない彼女なので今回のように怒りを露わにするのは珍しい。


「弥太郎は匂いフェチなんス!」
「そんなの知ってるよ」
「凄いっス!流石遥さんっスね!」
「五月蝿いよバカ、さっきも言ったけどそういう"音"がしたんだよ」

色々な音が混じって正直気持ち悪い。

遥は不快感を隠さず、苛立ちを交えた視線で弥太郎を見る。

「・・・・・・忠告しておくけど私からデータを得ようとしない方が良い。
頭パンクして熱が出るのがオチだから」
「?」
「データ容量が多いんですね遥さん!」
(もう嫌だこの二人)


一種の疲労感が遥を襲う。
一応釘を刺したが果たしてちゃんと聞いてくれているのか。

遥は深く溜息を吐いたのは仕方が無いと言えよう。



  □□



「・・・ねえ、船とか水上バイクってある?」

そう尋ねた因幡遥の様子に変な所は無く、夏輝と弥太郎は互いの顔を見合わせたのも束の間、すぐに彼女の問いに頷いた。
それが三十分前の出来事だったのだが。




(嫌な予感がしたから快斗の盗聴機を勝手に拝借して、彼に張り付けておいたけど何というか・・・快斗、追い詰められてない?)

盗聴機から聞こえる沢山の"音"に遥は辟易しながらもその中から必要なモノを次々と拾い上げる。

("大量の偽真珠""トランプ""宝石言葉"・・・ふーんこの"声"の持ち主、面白いなあ。
沢山の葛藤と好奇心がせめぎ合った音は実に私好みだ)

今彼女がいるのは船の上。
野羅が所有する船を手配して貰い、横浜港を出発しQ.セリザベス号を追っていた。

酔い止め薬を服用したが、やはりすぐには効果は発揮しない。
遥は船酔い特有の気持ち悪さに吐き気を抑えていた。

(・・・あー・・・気持ち悪い)


夏輝はともかく弥太郎は何かを言いたそうだったけど結局口にする事なく終わったものの遥には全て筒抜けだった。
しかし彼女はその全てを敢えて黙殺した。

常識的に考えて夏輝という少女は色々迂闊すぎる。
普通初対面の人間に水上バイク一つ渡すだろうか。
・・・まあちゃんと傷一つなく返すと言ってあるが。
後は野羅の勧誘についても前向きに検討するとは言ってあるが、ぶっちゃけ反故にする気は満々だ。


同じ眷属であり"能力"を使われたら。
手を触れられたら、匂いをあのタイミングで嗅がれたら。
この考えは容易く気付かれただろうが、自分のデータを取ろうとするとその情報量の多さからパンクしてしまうというのは兄で既に実証済みなので然程心配はしていない。


Q.セリザベス号の現在位置並びにどういうルートで回るのかは快斗経由で知っている上に、水上バイクの操縦は子供の頃から教わっていた事の一つだから問題ない。

(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。あー・・・吐きそう)



『ザザッ・・・この場に・・・な、て・・・・・・ネは、・・・だぜ?』
「・・・いよいよ終幕かな」

彼の独断場とも言える、ショーの幕引き。
勝利を確信した若い声に遥は集中する。

船はもう視界に入っている。
どんどん近付いてくるその距離に比例して盗聴機から聞こえてくる声も安定してきたようだ。



『―――お前を巨匠にしてやるよ、怪盗キッド。
監獄という墓場に入れてな・・・』

「言葉選びが上手いなあこの声の持ち主。
とても――歳とは思えない・・・」


彼女の呟きは風音によって掻き消される。
さあ迎えに行きましょう。

翼をもがれ、飛べなくなってしまった哀れで詰めの甘い白き鳥を。



  □□



「・・・嫌な予感がして来てみれば、君此処から泳いで逃げるつもりだったの?」
「っえ!?遥!?なっ何でオメーが此処に!?」
「何だって良いでしょ・・・魚嫌いの君がよくその決断に至ったものだね」
「うるせーよ!つーか水上バイクなんて運転出来たのか!?オレ知らなかったんだけど!」

無事、怪盗キッドもとい快斗を回収する事には成功したがその本人が五月蝿いこと五月蝿いこと。
遥は無言の中突き飛ばしてやろうかなどと不穏な言葉を胸中で抱いていた事は彼女以外知る由もなく。


次は探偵sideも書こうかな。

20160327