アイのシナリオ | ナノ

「あっちゃー雨が降ってきてらー・・・遥、一緒にこの傘に入って帰ろうぜ」
「(・・・それって相合傘じゃなかったっけ・・・)・・・ん」

あっけらかんとそう言う快斗に一瞬遥は唖然とする。
しかし元来感情表現が薄いのが彼女の特徴なので快斗はそれに気付かない。
彼女の機微に気付くのはもう少し先の話だ。


しとしとと雨音が彼女の耳に木霊する。
傘で遥の白髪が隠れるから家出中の身としては助かる。

―――そう思いつつ交差点を渡りきった時に必死な声が彼女の足を止めた。

「っし、新一!!」

「・・・・・・?」
「っと、・・・遥?」
「(・・・しんいちって、何処かで聞いたような・・・)・・・・・・大丈夫。
ちょっと考え事をしていただけ」


そう言ってまた歩き出す。
遥が交差点の向こう側を振り返ったが傘で視界を隠されていて、必死な声で叫んでいた少女の姿を捉える事は出来なかった。



  □□



「じゃあオレ行ってくるけど・・・誰か来ても出るんじゃねーぞ?」
「こんな時間に来る人間なんていないと思うけど」
「それでもだ!
そんじゃすぐに帰ってくるからな!」
「・・・ん」

引き籠った遥の姿は見えない。
快斗はその事に名残惜しみつつ、彼女の部屋の扉越しに「行ってくる」と告げた。


―――それが三月三十一日の事である。




April fool

月が二人を分かつ時
漆黒の星の名の下に
波にいざなわれて
我は参上する

―――怪盗キッド


「・・・暗号かー」

米花博物館に行けばどういう警備体制でいるのか、黒真珠がどんなものなのか等全て分かるが生憎今の自分は家出中の身。

身代金要求の声を聞かないといけなかったあの日々が遠い昔のように感じるのはそれだけ自分がこの日常に慣れてきた証拠だろうか。

快斗が見せてくれたこの予告状。
それに書かれた暗号の意味は不意に聴いてしまった彼の"声"で分かってしまった。

なので敢えて考える必要はない。
・・・それに余計なカロリーも消費するし。

(・・・我ながら何という反則技・・・まあ"警察犬"が出張ったらどんな大事件もこんな感じか)

淡々と考えながら本番の下見という杯戸シティホテルへと視線を走らせる。
ぴくんと耳を動かし、普段よりも紅く光る瞳に鈍い光を灯らせて。


―――今宵は満月。

怪盗キッドが告げた日であると同時に"彼女"の本来の姿が露になる日。
遥は偶然とは言え重なってくれて良かったと心から感謝した。


腰まで長くなった髪を鬱陶し気に払い、遥は徐ろに満月を紅玉に映し込む。
そして思いを馳せる。


(にーに、満月でテンションが高くなってまたハメを外してないかな)

思い描くのはいつだって同じ境遇の兄のこと。



  □□



「ったくあのガキ、一体何者なんだ?」


夜風が髪を、肌を靡かせる。
月光に紛れて己を隠し、ハンググライダーで家路に着こうとする途中、彼は思考する。

小学生の姿をしているが、眼鏡の奥に潜む鋭い光は小学生が到底出せるものではなかった。

「何者といえば遥もだけど・・・」

白髪赤目。
アルビノの特徴は何かと目立つ。
本人曰く家出少女らしく、今日連れ出したのももしかしたら知り合いが釣れるのではという打算からだったりするのだが、見事にそれは無かった。

情報が全く無いなんてあり得るのだろうか。
自分は今とんでもない存在に手を出していないだろうか。

ぐるぐると嫌な思考が離れない。
彼女はそんな人間ではないと信じたいが如何せん情報が少なすぎる。

判断材料が無いとこうまで迷うとは。

快斗は自嘲めいた笑みを浮かべる。


「あー・・・くそ、オレが知ってる事なんて・・・ん?」

確か遥は兄がいるとか言ってなかったか。
曰く毛フェチの兄。
遥の名前から考えると苗字は高確率で"因幡"。

「おいおい嘘だろ・・・」

この天下の怪盗キッドがこんな初歩的な事に気付かないなんて。
己のミスにキッドもとい快斗はがっくりと項垂れる。

そんな白い鳥を嘲笑うかのように月光が照らしていた。


行き当たりばったりで書いている連載なので辻褄合わせるのが大変です(真顔

20151220