アイのシナリオ | ナノ

「ブラックスター?」

赤い瞳が快斗の青紫の瞳を射抜く。

―――遥は相手の瞳を見て話す。
その事に快斗が気付いたのは黒羽家に居候してから二日目の事だった。

閑話休題。話がそれた。


「ああ、鈴木財閥が所有する黒真珠なんだ」
「ふーん・・・という事は次の標的がその黒真珠なんだ?」
「おう!」
「しかも鈴木財閥って確か国内有数の財閥だよね・・・なんかやっと快斗が怪盗キッドなんだって実感したよ」
「ちょっそれどういう意味!?」
「そのままの意味だよ」


数日寝食を共に過ごして分かったが黒羽快斗という人間は非常に聡明であると同時に若さ故の未熟さや精神的なムラが目立つのだ。
今は良いかもしれないが、今後腕と頭が良い人間が現れたら非常に危うい。

・・・髪の毛一本でも現場に落としたら最後、兄の手にかかって正体がバレる可能性が大だ。
それに私が"番犬"として現地入りしていたら、バレるバレないの問題ではない。
確実にアウトだ。断言しよう。

―――声だけで何者か判別が出来る。
世の犯罪者が聞いたら何を差し置いてでも真っ先に消しにかかろうとするのは火を見るよりも明らかだ。


(・・・うん説明が面倒臭いから言わないでおこう。面倒臭いし)

大事な事だから二回言った。
いつも通りのやる気のなさそうな遥の思考など露知らず、快斗は僅かに首を傾げるだけに留まった。

「遥?どうした?」
「・・・何でも無いよ。
それよりも油断しないようにね、居候先を失う事だけは勘弁だよ」
「其処は素直に捕まらないでねって言えねーのかよ・・・」
「立場上それを言うのは変な感じがする」
「は?立場上ってなんだよ?」
「企業秘密」

否。
正確には企業秘密というより国家機密と言うべきか。

遥はその言葉を飲み込み、微笑する。自嘲する。


彼は怪盗で自分は番犬。
決して相容れる事など出来る筈が無いのに。


そんな遥の気持ちを他所に快斗は快活な笑顔を向けた。

「なあ遥、渋谷で買い物に行かねーか?」
「・・・はあ?」



  □□



「・・・なんでこんな事に」
「おーこの服も良いな!遥の髪色にも似合ってるし!
なあ遥もそう思うだろ?」
「・・・・・・」


そう言って勧めてきたのは明らかに派手な色合いの上着。

・・・正直に言おう。
この容姿で既に派手なのに更に派手なものを着るのは流石に抵抗がある。

「なんで君が選ぶのは全部派手なわけ?
着るものなんて暑くなくて寒くなければどうだって良いよ。
ただでさえ派手で目立つのにこれ以上目立ちたくないんだけど」
「遥は派手だからこういう服が似合うんだよ!
つかせっかくの容姿なんだから着なきゃ勿体ねーって」
「・・・せっかくの容姿?」
「は?無自覚とか言うのはナシだぜ?
オメー美人だとか言われてねーの?」


きょとり。

遥の紅玉が丸くなる。
ついでに開いた口が塞がらないといった表情で固まっているのを見て快斗はえ、と目を瞬いた。

・・・もしかして、もしかしなくとも。


「・・・言われた事ねーの?」
「不気味だとか気持ち悪いとかは言われた事はある」
「はあっ!?」

快斗が何か大声で叫んでいるけど無視だ無視。

思わず耳を塞いだ私は悪くない。
私は能力的に大声や大きな音などが苦手だ。むしろ天敵と言っても良い。
映画館などまさにそれで一度も行った事がない。
兄も私に配慮して遊びに連れて行ってくれる時は映画館だけは必ず避けてくれていた。
だから兄も私と同じく映画館は無縁だった筈だ。

「・・・!」

(うわっ白!)
(カラコンが赤とかないわー)


「・・・」

人の心の声が流れ込む。
内容は案の定、自分の容姿について。

ヒトよりも耳が良い分、聴こえなくても良い音まで拾うのだから困ったものである。

「見た?」
「見た。あれはない」


ぼそぼそと話しながら去っていく若い女二人。
二人には『アルビノ』という単語とその内容を知らないらしい。

別に今更か、と遥が嘆息混じりに息を吐こうとした瞬間。

す、と両耳に何かが触れる。
次いで背中に何かの温もりを感じた。

「・・・余計な音は削除っと、ね」
「・・・・・・」

遥はゆっくりと背後に視線を向ける。
其処には悪戯が成功したような不敵な笑みを浮かべた快斗がいるのを見て、遥は自分の心がざわついた気がした。


快斗の性格が人懐っこいのでかなり絡ませやすいと気付いた瞬間。
・・・あれこの二人、対照的じゃないか?

20151206