企画 | ナノ

「・・・名前」
「何だい半纏?」
「その制服は何だ」
「わっはっは、箱舟中学を少し離れてみようと思ってね。
だから今度は早乙女君が経営する早乙女学園に行ってみようかと思い至ったんだが」
「・・・・・・早乙女学園?」


彼女の突拍子も無い発言は今更だ。
半纏もそれを分かっている。
分かっているが納得しているかと問われれば別の話だ。
・・・今回は一体どんな事態に巻き込まれるのか。
そう考えるも次第に億劫になってきた為、半纏は半ば諦めながら思考を放棄したのだった。



  △▼△



「やっほー七海ちゃん渋谷さん、受験以来かな」
「あっ安心院さん!」
「安心院さんひっさしぶりじゃん!」

七海春歌、渋谷友千香。共にAクラスの人間だ。
ちなみに名前はSクラスの人外である。

「おいおいそんな日が空いていないじゃないか、・・・ところで君達顔面蒼白なんだが何かあったのかい?」
「え゛」
「・・・・・・安心院さん・・・料理って・・・芸術ですよね・・・」
「は?・・・君達、傍から見たらまるで桃井ちゃんの料理を無理矢理食べさせられた黒子君や青峰君みたいだぜ?」
「・・・・・・あたし達からしたら桃井っていう娘や黒子君とか青峰君っていう名前が気になるんだけど」
「おおっと其処は気にしないでくれ。で、真相は?」

名前と半纏の脳裏には中学時代、桃井の手料理の毒牙にかかってしまい半日の間地面と仲良しになるという光景を思い出していた。
ちなみに彼女の幼馴染である赤色と紫色は逃亡する事に成功したが、運悪く捕まった黄色と緑色も黒色、青色と同様の運命を辿ったのは余談である。
・・・心なしかその時の彼らと同じ顔をしているのは気のせいではあるまい。


「・・・えっと、四ノ宮さんが持ってきてくれたクッキーが、その、」
「とんでもない味だったのよね・・・」
「(・・・あ、やっぱり何処かで見た事のある表情だ)
・・・桃井ちゃんと同系統なら『味発見の財宝トレジャーテイスティング』を使ったら何とかなったかもね・・・」
「だから桃井ちゃんって誰なのよていうかアンタの後ろにいるその水色の髪の男の人は」
「半纏の事は気にしなくて良いぜ渋谷さん」

(気にする・・・!)
(凄く気にします・・・!)


艶やかな黒髪、ヘッドバンドが特徴の安心院名前。
Sクラス所属、アイドルコースの彼女には入学当初から一つの謎がある。

しかも現在進行形でその謎は目の前にある。
彼女の後ろでずっと無言のまま立つ空色の髪の青年。
会話に入る事も無ければ存在を主張する事も無い。

まさに『ただ其処にいるだけ』

会話すら誰もした事がないし顔も見た事が無いという謎。
安心院名前のパートナーにして作曲家。
とんでもない美形であるとか逆に残念な容姿なのだとかいろいろな噂がある不知火半纏だが真相を知る者は担任ですら知らないという。
知るのはパートナーである名前のみ。

興味津々な目を半纏に向ける春歌と友千香だが、その期待に半纏はやはり応えない。

「・・・だってさ半纏」
「・・・・・・」
「ねえ安心院さんはさ、不知火さんと会話をした事があるの?」
「勿論さ。半纏と初めて会った百五十年前から会話も顔も交わしているぜ」
「ひゃ、ひゃくごじゅう・・・!?」
「あー・・・ねえ、春歌が本気にしちゃうからそういう冗談は、」
「わっはっはっは、・・・(ぼそ)冗談じゃないんだけどねえ」

『?』



  △▼△



「本当の事を言っただけなのに冗談と思われるのは心外だよねえ。
そう思わないかい半纏」
「・・・」
「おいおい無言かよ。
まー反転院さんになってないから仕方無いか」
「・・・」

名前が独り言にも似た会話を半纏と続ける。
すると今度は男性陣とエンカウントする事になった。


「安心院さーーーーんっっ!!
ぎゅーってさせてくださーーーーい!!」
「・・・・・・わっはっはっ、この僕にそんな事を試みようとしたのは君が初めてだよ四ノ宮君」

薄く笑いながら華麗に那月の締め付け抱擁を躱す名前。
勿論背後にいる半纏も見えていない筈なのに名前同様躱していた。
・・・千里眼か何かを持っているのか。そしていい加減顔を見せろ。

背後に控えた翔達の中で何人が突っ込んだのか。

「・・・否よく考えたら球磨川君でいたかな。
その時は確かキックで迎撃したっけ、懐かしいな。
―――さてと、やっほー四ノ宮君達。みんなして一体何を話しているんだい?」
「安心院さん何で避けちゃうんですか、ぎゅうってさせて下さい!」
「うんあの勢いだと僕の体が木っ端微塵になるからに他ならないからだよ。
四ノ宮君は自分の力もそうだけど諸々含めて自分の事をもっとよく知った方が良いぜ」
「!お、おい安心院、」
「・・・よく分かりませんが分かりました!」
「それ絶対分かってねえだろ!?」

「・・・あれは確実に眼鏡を外したら、という事を言っているのだろうな」
「それしか無いだろ、シノミーの眼鏡は要注意だからね」
「お前と意見が合うとはな神宮寺」
「それはこっちの台詞さ」

真斗とレンの間で火花が飛び散る中、名前は躊躇無く割り込む。
ちなみに半纏は未だに後ろを向いたままで微動だにしない。

「相変わらず仲が悪いな、君達は」
「仲が良くなる日なんて一生来ないよ」
「そうかい?君達みたいな仲は案外、共通の敵が現れた時とかには共闘するもんだがね。
僕の経験上その傾向が強かったし」
「え経験って安心院、どんな生活してたの?」

きょとん、と純粋な瞳で尋ねたのは音也。
名前はその問いに微笑を浮かべた。

生活?
その言葉は僕にとっては正解とは言えない。
生活ではなく人生と言っても良いだろう。

「君達の想像を軽く突き抜けたものだと答えておくよ。
それこそ波乱万丈、愉快痛快不愉快な人生さ」
「・・・今ヘンな単語が混じっていませんでしたか」
「気のせいさ一ノ瀬君」

僕の人生を語ろうものなら軽く数年はかかるぜ。
今回の学園入学も僕にとってはただの気まぐれに過ぎない。

アイドルとは僕にとって"出来ない事"になるのか否か。
必要な結果はこの二つの内のどちらか。
ただそれだけの事で、その結果が出るまでは彼等と遊ぶのも悪くない。

  悪平等と音楽世界

リクエストと全ッ然添えてない・・・後半半纏さんが喋らない事喋らない事。
こんな感じで良かったでしょうか?(汗

20140413