企画 | ナノ

「僕は安心院名前。
親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」

そう告げた時の彼女の笑みはひどく印象的だった。
一見人当たりの良さそうな笑顔だったが、分かる人間には分かる。
あの笑顔は全て計算されているかのような、そんな笑顔だった。



  △▼△



「安心院はバスケをしないのか?」

霧崎第一高校、体育館。
放課後にて男子バスケ部は練習をしている。
今の時間は休憩時間なので突然の古橋の台詞に咎める者はいない。
しかし反応したのは名前を呼ばれた名前ではなく原だった。


「安心院がバスケって、運動しているイメージってつかなくね?」
「全くもってその通りなんだろうけど釈然としねーな。
とりあえず原君、君は余程命がいらないらしいね、どのスキルを喰らいたい?」
「ごめーん」

ラフプレーで有名な霧崎の部員も真っ青な、凶悪な笑顔に原は即座に謝罪する。
純粋な悪意に溢れた笑顔を相手にするには原は力不足だ。
だからと言って安心院名前という最強の人外と同等な人間などこの世にはいない。
対等である為にはまず人間という括りから外れなければならないだろうと、空色の人外なら言うかもしれなかったけれど。


「・・・ま、話を戻そうか。
僕はスポーツに対してそんなに魅力を感じないんだ。
これはスポーツに限らず、勉学もそう。
『スポーツ』『勉学』『青春』『仕事』『恋愛』等、それら全てに何も心に響かない。
だからこそ『平等主義者』で『悪平等』だ。
逆に言えばだからこそ『悪平等』足り得るというわけなんだが」

何の感情さえも映さない、硝子のような瞳。
冷めたその双眸は一体世界をどう見ているのか。

それは彼女と、『欲視力パラサイトシーイング』というスキルを持つかの人物だけが知る。



  △▼△



「つーかさその悪平等って何なわけ?
安心院お得意の言葉遊びか?」
「山崎君、僕のことは親しみを込めて安心院さんと呼びなさい。
・・・『悪平等』は世間一般に使われている言葉でもあるが僕の言う『悪平等』は少し違う。
そもそもこれは僕が"彼等"に合わせて適当に言っているだけだからね。
悪平等という言葉の意味を知りたければネットなり辞典なりで調べてみたまえ」
「なっ教えろよ!」
「ザキお前やっぱバカ」
「馬鹿だな」
「はあ!?」

原と古橋の軽口に簡単に反応する山崎。
後ろでは花宮が溜息を吐いているし瀬戸に至っては爆睡している。
名前はそれを横目で見つつ、マネージャーとしての仕事をすべく足を動かした。






「・・・安心院」
「何だい古橋君。僕はこれでも忙しい身なんだ、要件は手早くしてくれよ」
「安心院は何故マネージャーになろうとした?」
「・・・・・・」
「さっきの話を聞いて思った。
確かに安心院がスポーツをしている姿は想像がつかない。それはマネージャーも然りだ。
安心院は花宮と同じ策略家で参謀タイプ、舞台裏にいる方がしっくりくる。
・・・だからこそ腑に落ちない、安心院お前は、!」
「其処までだぜ、古橋君」

名前と古橋の間にあった距離は約二メートル。
しかしその距離も瞬きという行為の僅かな時間で名前が詰めていた。

つまり。
約二メートルという距離をあっという間に埋めたのだ。
眼前にいる名前の表情は本日何回目か忘れてしまったが凶悪な笑みを浮かべている。

その笑みの裏に潜む感情に古橋は全く分からない。
否。
分からないのはある意味当然かもしれない。
何故なら。何故なら彼女とは、安心院名前という人間―――人外は。


「僕に目的なんて無いと第三者から見ればそう思うだろう。
僕にはバスケが好きだからとか、部員の誰それが好きだからなんて理由は存在しない。
マネージャーをしたかったから、なんてのは以ての外だ。それこそ論外だぜ。
さっき言ったじゃないか、僕は何に対しても心に響かない。
だからこそ、『悪平等』足り得るのだと」
「・・・・・・」

黙る。口を閉じる。閉口する。沈黙する。口を噤む。語らず。話さず。
古橋は―――名前が発する空気に、威圧感に圧倒されて呑まれてしまった。


「―――劣等感マイナスなんてくだらない、優越感プラスでも全然あがれない。
だったらそんな差別は無意味極まる。
勝利も敗北も、試合そのものさえも僕達にとっては押しなべて普通に平等なんだよ」


ぞく、

そう言って昏くて暗い笑みを浮かべた名前の姿に山崎を始めとする何人かは悪寒を覚えた。
見た目は人間だ。
だが恐怖した。人間の皮を被ったこの人外に。
一度恐怖を感じてしまえば終わりだ。
この世は所詮弱肉強食。
呑まれてしまえば、終わり。


こつ、と名前は黒髪を靡かせながら彼らに背を向ける瞬間。
徐に顔を古橋の方へと向けた。


「一つだけ真実を教えてあげようじゃないか古橋君」
「・・・?」
「此処に来れば分かると思ったんだよ」
「何をだ」
「勿論『感情』を、さ」


そう言った時の彼女は今にも消え入りそうで、声をかける事も出来なかった。
それから数ヶ月後のある試合にて、オレ達はそれを徹底的に理解する事になる。

  不毛で水平線な会話の先にあるモノは

リクエスト通りにいかなくてすみませんでしたああああ!!!orz
何度考えても古橋君のキャラが掴めなくてオチにすらならなくて本当に申し訳無いです((((゜Д゜;)))ガクガク
安心院さんで恋愛って難しい・・・(汗

20140413