企画 | ナノ

!海賊原作時間軸:ロビン奪還編後



前の世界では彼女はいつだって退屈そうな目で世の中を見ていて、その綺麗な硝子のような目で自分が退屈しないよう世界を相手に面白おかしく生きていた。

そんな彼女の影武者として寄り添っていたあの時代。
ぼんやりと考えていた、「ただ其処にいるだけの人外」の不知火半纏だったが、ある時ふと思い至った。


彼女が未だに復活しないのは単純に時間がかかるのかもしれないが、世界が退屈だからこそ復活に時間がかかっているのではないか。
ならば自分が退屈しない世界を作って造り上げて創ってしまえば、彼女は再び自分の元へと来てくれる筈だ。

いつも通りの、無敵で素敵な笑顔を浮かべて鈴を掌で転がすかの如く、無邪気な声で。


頓智開闢インテリジェントスタート』、世界創造のスキル。
次元喉果ハスキーボイスディメンション』、次元を超えるスキル。

かつて彼女が持っているだけで使わなかったスキルなんてそれこそ掃いて捨てる程あるが、とりあえず自分に世界を創造するだけの想像力があるとは思えなかったので、まずは次元を超えるスキルを使い、彼女好みの世界を巡る事にしたのだった。


―――それが、何十年、何百年前の話である。



  △▼△



麦わらの一味には一人の人外がいる。
真冬の空のような水色の髪、大海を切り取ったような何処までも澄んだ、深い青い瞳。
右手首に黄色のリボンを巻いた青年。
何処までも無表情で無感情。
平等に均等に"世界"を見る。
年齢不詳。過去不明。出身未詳。
そんな怪しすぎる男だったが、何故か船長であるモンキー・D・ルフィが「絶対大丈夫だ」と何処から来るのかよく分からない自信の台詞の元、彼は今日も平和に過ごしていた。

警戒心の強いクルーからは当初、自分だけはしっかりしなければという謎の使命感から彼を見ていたのだが、幾度となく絶体絶命とも言えるピンチを回避させた事から彼は信頼を徐々に勝ち取っていた。
・・・本人にとってみれば信頼も敵意もどちらも等しく、自分にとって全ては押しなべて平等だと言うのだけど。




『お前っ・・・なんでこの一味にいる!?』
『・・・・・・』
『政府は、お前をずっと探して、』
『俺が何処で何をしようと関係が無い。
俺を縛れるのも解放出来るのも。俺の全ては"彼女"だけに捧げる。
今までもこれからも。それは変わらない』


CP9との壮絶なる戦いにて、彼は淡々と言った。
決して声を大きく張っていないのに、その声は静かにその場にいた人間の耳に響いた。

それは一つの決意。揺るぎない覚悟の声。
もう誰がなんと言おうと覆す事はないのだと。


「なー新しい手配書見たんだけどよ、なーんで半纏の手配書だけALIVE ONLYなんだ?」

ルフィの疑問に満ちた声に半纏と呼ばれた男は沈黙したまま顔だけルフィに向ける。

麦わらの一味において一番謎に満ち溢れていると言っても良い彼が唯一分かっている事とすれば彼の名前だけだったりするのは意外と知られていない事実だったりする。

彼の名前は不知火半纏。
知る人ぞ知る、「ただ其処にいるだけの人外」だ。

「・・・さあな。俺に死なれるとまずい事があるじゃないのか」
「ふーん。確かに半纏ってすっげー技がたっくさんあるからなー」

質問してきたくせにしっかりとした回答を求めていないというこの大雑把さ。
半纏はこの辺りにおいてルフィという男はつくづく自覚の無い大物であるとここ最近実感してきた。

「そういや、お前この前"彼女"が行動理念だって言ってたけど、"彼女"って誰だ?」

今度はウソップがそう問うてきた。
彼の質問の内容に半纏は一瞬瞼が震え、体が硬直する。
そして無意識に右手首に巻きつけた黄色のリボンを左手の指でなぞる。


・・・大丈夫、彼女がいた証は此処にちゃんと、


「確かに何回か聞いた事があったわね。
丁度良いわ、ちょっと半纏教えなさいよ!」
「あれ、皆此処にいたのか?なあウソップ、何の話をしてるんだ?」
「おっいい所に来たなチョッパー!
今から半纏の謎を暴くのさ!よーしそうと決まれば事情聴取開始だ!」

ナミ、チョッパーと続々クルーが集まってきた事に半纏は僅かに嘆息する。

別に隠していないから今更"彼女"について話しても何の問題も無い筈だ。
そう、彼女を喪ったと感じた、あの瞬間に比べたら自分の心は問題無い位凪いでいるのだから。

「・・・"彼女"は、俺の全てだった女性だ」

半纏はそっと瞼を閉じる。
それと同時に瞼の裏に彼女を描く。

たっぷりとした長い髪。色は赤銅色。
そんな髪を梳いて、黄色のリボンで緩く結わせてくれるその時間が愛しかった。
背中合わせに伝わる体温が心地良かった。
大きな瞳に自分が映るのがひどく嬉しかった。

自分のような人外でも彼女が見ている世界に存在しているのだと、実感出来たから。

視界の隅に"彼女"の形見である黄色のリボンが映り込む。
自分に残されたものはこのリボンと約一京という膨大なスキル、そして彼女と過ごした記憶だけ。
リボンはいつでも見られるように、無くさないように手首に巻いた。
それだけでも自分が自分でいられるようになったのだから、これはこれで正解だったのだろう。


「全て"だった"って・・・もしかしてその"彼女"とやら、死んだのか?」
「死んだ。一人の少女とその仲間を庇って、逃げる時間を稼ぐ為に」


「俺は諸事情でその場にいなかった。だから彼女の最期に俺は立ち会えなかった」

大好きだった。否、そんな言葉では足りない。
愛している。
長い時間を生きていたけど、あんなに強烈に惹かれる事はなかった。
飽きる事なんてなかったし離れようだなんて微塵にも思わなかった。
それ位、自分は"彼女"を必要としている。

「なあ半纏、その"彼女"ってどんな人だったんだ?」
「・・・誰よりも綺麗で、気まぐれで、何でも出来る自殺志願者だ」

凪いだ海色の双眸に一瞬懐古の色が宿るが、半纏を取り囲んでいたクルー達は彼の最後の言葉に凍り付いた。


・・・じ、自殺志願者?

彼らの動揺に気付いたのか、半纏は眉一つ動かさずにそのまま淡々と口だけを動かす。

「"彼女"は何でも出来た。だからこそ"彼女"は生きる事に何の魅力も感じなかった。
生きがいも何も感じなかったが、それでも生きようとした。
何か一つでも、自分が出来ないと思い知らせてくれるものがあるのではないかと、難しいと思うものに挑戦していく、そんな"彼女"を俺はずっと見てきた」

次から次へと難問に取り組んでも結局すぐに出来てしまう。
大きな瞳に一瞬だけ覗く感情に半纏は最後まで声をかける事が出来なかった。
それがひどく彼を責め立てる。
何故、どうして。

あの時、"彼女"に言わなかったのだと。


「はー・・・もう良いわなんか結局壮大な惚気話にしか聞こえないっていうか・・・アンタどれだけその"彼女"が好きだったのよ」
「違う」
「え?」
「勝手に過去形にするな。
俺の"彼女"の想いはあの頃から何一つ変わっていない」

人になんと言われようと関係ない。
これが俺の、不知火半纏の愛し方。
"彼女"の為ならこの身がどうなろうと構わない。

全ては世界が"彼女"にとって生きようと思い、自分の光になる事を許してくれるかどうか。

その為にも退屈なんて感じさせない世界を創るとあの日に決めた。
そうすればきっと、


「俺は名前の為に生きてきた。今までもこれかもそれは変わらない。
だから俺は待っている。
いつか俺の前に再び名前が現れるのを」

半纏の深い青の目に宿るのは狂いそうな程の恋情だと気付いたナミは息を呑む。
この空色のクルーが此処まで感情を剥き出しにしたところなど見た事がなかったからだ。


死んだと言われる名前という少女。
再び会える日など来ないと常識的に考えて分かる筈なのにそれさえ言えず、ナミは人知れずもしその少女に邂逅した時。
きっとその時は、色々な意味で荒れるだろうと直感したのだが、それを口にする事はなかったという。

  狂いそうな程の恋慕と壊れそうな程の愛情を捧ぐ

というわけで反転院さんシリーズネタでした。
ゆき様こんな感じで良かったでしょうか!?
『虹色』をお読み頂き有難う御座います(*^^*)
半纏さん殆どヤンデレになった気がしなくもないのですが、私の思う彼はこんな感じです。
海賊世界にて主人公と再会したらどうなるのか、ちょっと私も予想しにくかったので敢えてぼやかしてます。
まあ其処ははご想像にお任せしますということで(苦笑
リクエスト有難う御座いました!

20150512