企画 | ナノ

折原名前は色々な面で有名だ。
容姿で言えば端麗で、薄ら浮かべる微笑がよく似合う。
成績も優秀でよく学年でも上位に名前がある。
それだけ聞けば典型的な頭脳労働派かと思われるがその容姿からは予想できない程の高い身体能力を持っている。

―――例を挙げるとするならかの有名な『自動喧嘩人形』平和島静雄の攻撃から無事逃げ切れる程。



非の打ちどころが無いとされる折原名前が、現在進行形で他人から一線を引かれている原因はまさに其処であった。



そんな折原名前は現在、双子の妹である九瑠璃と舞流を適当にあやしていた。


「ねーねー名前姉っ!」
「・・・何、舞流」
「あそこっ!何か落ちてるよ!」
「は?そんなのどうだって・・・」
「姉」

無言で何かを差し出す妹、九瑠璃に名前は色々諦めたようで彼女と同様無言で受け取った。
一体何が落ちていたのか。

九瑠璃と舞流を歩行者の邪魔にならないように適当に座らせると名前は徐ろに掌に持つ書類を見る。


(・・・男子バスケ部合同合宿メニュー表・・・?
えーと?学校名とメンバー・・・後は責任者は・・・)
「ねー名前姉っ!何が書いてるのー?」
「教」

「・・・別に?さあ二人共早く帰るよ」
「ええーっ!」

妹の不満の声を他所に名前は口元を三日月型に歪ませる。

楽しそうに。愉しそうに。名前は笑っていた。


「・・・」


そんな二人を静かに見つめるのは名前のすぐ下の妹、九瑠璃だ。
姉が喰えない性格をしている事を薄らとではあるが、九瑠璃は幼いながらに知っていた。


名前姉、たのしそう。

九瑠璃は姉の愉快犯染みた笑みを見てそう思った。



  □■□



折原名前はキセキと同様、元帝光中出身だ。
そして現在、来神高校一年。

平和島静雄、岸谷新羅、門田京平とは同中にして同高だ。


「キセキの世代ね・・・中学の時はシズちゃんとの喧嘩で全然絡めなかったけど丁度良いや。
折角の機会だしこれを逃さない手はない」


名前の表情から楽しみ以外の感情が一切消える。
純粋なる喜色ではあるが知る人が見れば頭を抱える類の笑みだ。


「面白くなるかなあ・・・まあ面白くなければ私が面白おかしく引っ掻き回せばいい話か」


不遜な笑みを浮かべ、書類を片手に携帯で調べた合宿所に足を運ぶ。
その楽しそうな足取りと笑みは新羅達が見れば「碌な事を考えていないな」と危険視するものだったのだが、それを指摘出来る者は残念ながらこの場にいない。


「楽しみだなあ、楽しみだなあ」


名前の趣味は人間観察だ。
普通とは違う、一線を引いた人間と腹に一物抱えた人間は特に観察する傾向がある。

観察に観察を重ねた結果、大半の人間が取るであろう行動をほとんどの確率で予測できる名前は、自身の予測が外れた人間を観察したがる。


名前は軽い足取りで雑踏に紛れ、目的地へと向かうのだった。



  □■□



本来なら噎せ返るような暑い空気が充満している筈の合宿所の一角にて、合宿参加者は現在背中に冷水を浴びたような感覚を味わっていた。

「・・・・・・」
「・・・過ぎ去った事をいつまでも怒っても仕方がないのは分かっている。
分かっているが、それは相手がしっかり反省していた場合だ。
・・・・・・何か言い残す事はあるか?

怖い。

にっこりと笑う赤い髪の少年に思う事はただただその一言に尽きた。

キセキの世代と呼ばれる五人のバスケット選手をそれぞれ獲得した各校のレギュラー達は不自然に目をそらしている。

一方の赤い髪の少年もとい赤司征十郎は怒涛の追撃に入った。
勿論彼らの反応など気付いているが無視の方向である。


「お前達本当に分かっているのか?
あの書類には個人情報も書かれていて悪用される場合だってある。
もしそうなったら、」
「う、」


赤司の言う事はいつも正しい。
正しすぎてぐうの音も出ないとはまさにこの事。

赤司の真正面に正座で座らされている葉山とその他選手は冷や汗を流しつつどう言い訳しようか考えていたその矢先。


「―――全くもってその通り。
世の中情報に溢れていて、いつ、誰が、何の目的を持ってその情報を得ようとするのか。
それは良い事なのかもしれないしはたまたその逆で物騒なことを考えているのかよく分からないから、これからは気を付けた方が良い」


こつ、こつ。

たゆたう黒髪と柘榴色の瞳に潜む、危なげな光。

颯爽と現れたのは池袋にて敵に回すなと言われている片割れ。

折原名前。


「あ、アンタは」

キセキの世代と呼ばれた選手がその姿を視界に入れると同時に瞠目した。


かつて帝光全学年の生徒が悪い意味で問答無用で記憶に叩きつけた存在が何故今此処にいる?


「おい部外者は立ち入り禁止、」
「部外者である私を追い出すのは勝手だけどそうすると困るのは君達だよ。
―――これ、君達が現在進行形で探している書類じゃないかい?」
『っ!!』
「ああ勘違いしないでくれよ?
私は偶然池袋駅内でこれを見付けて善意で持ってきただけの、ただの一般人なんだからさ」

くつくつと笑い、片手に持つ書類が入った封筒を見せつける。
名前を引き止めた山崎は名前から醸し出される不穏な雰囲気に一瞬息を呑む。


「だからさ、そう睨まないで貰えるかなあ?
黄瀬君、緑間君、青峰君、紫原君、黒子君、そして・・・赤司君」

帝光中生徒なら最早常識とされていた存在。
かつて三階であるにも関わらずガソリンタンクが転がっていた事もあり、その原因とされる彼女ともう一人の男子生徒はかなり危険視されていて。


「これは赤司君に渡しておくよ、合宿最高責任者は監督さんなんだろうけど一番近くにいるのは君だからね」

そう言って手渡される、重要項目が幾つも記載されている書類。
よりにもよってかつてのマネージャーである桃井を遥かに凌ぐ情報戦のエキスパートである彼女の手に渡るとは。

赤司はまだ何も問題が起こっていない筈なのに、間近で見る名前の笑顔に気が遠くなったような気がした。

  黒幕志向の危険思考とラスボスの気苦労

臨也成り代わり主人公は書いてて楽しいなあ!と思いながら書きました。
シズちゃんも入れようかなと思ったのですがどうやって乱入させられるか悩んだのですがうまく話を繋げられなくて断念。
でも多分乱入したら合宿どころじゃなくなると思ったのでやはりボツ。

うまくリクエストに添えられているか甚だ疑問ですが真城様、企画に参加して頂き有難う御座いました!

20150407