企画 | ナノ

「・・・やあ」
「・・・・・・よく自分に似た人は世界に三人いると言うが、此処まで来ると似ているどころの騒ぎじゃないね。
どちらかと言えばドッペルゲンガーと呼ぶべきかな」
「いやいや、ドッペルゲンガーに会ったら数日の間に死ぬと噂されてる存在だぜ?
ていうかドッペルゲンガーなんて不知火の里で十分だよ」
「確かに、それには納得だ」

赤銅色がかった髪に赤みがかかった双眸。
魅力的な笑顔を浮かべつつ、その実は何を考えているのか分からない瞳で相手を見る。

―――其処には一卵性の双子とでも称するに値する位、瓜二つの容姿を持った少女が二人、佇んでいた。


「・・・へえ、そっちの"僕"はセーラー服なんだね」
「そういう君は白のブレザーか。
一応聞くけど名前を聞いても良いかな?」
「僕は安心院名前だよ」
「・・・・・・」
「うん?」

てっきり名前は目の前にいる"自分"も同じ名前だと言われると思っていたのだが、実際の反応は無言だった。
これには名前も首を傾げた。

・・・はて。


「・・・・・・僕は安心院なじみだ」
「なじみ?」

きょとり、と目を瞠る名前の反応になじみは一瞬、憂いを帯びた瞳を見せた。

「・・・どうやら僕達は全てが全て同一というわけじゃなさそうだね」
「よくよく考えてみれば、確かに全てが同一なんてものは存在しないって分かっていたんだが、どうやら君と出会って浮かれていたらしい」

年相応に見えた表情から一転、一瞬で冷たい光が赤みがかかった双眸に宿る。
その表情と瞳はまさに全てを支配する人外そのもので。

相手が同一の存在、安心院なじみでなければ背筋に冷たい汗を感じていただろう。


「・・・まあ、こういう状況も悪くないかな。
せっかくだし楽しんでいこうじゃないか」


独り言のようにそう呟いた時、がらりと教室の扉が開いた。

教室に入ってすぐに教卓に佇む名前とその教卓の前にある机に優雅に座るなじみを視界に入れた人物―――赤司と緑間は目に見えて狼狽えた。


「あ、安心院が二人・・・!?」
「お、ちつけ緑間、きっと名前のスキルだろう」

赤司が冷静に事実を受け止めようとするがそれよりも愉快犯の名前が横槍を入れるほうが早かった。

「やっほー征十郎君、残念だけどこれは僕のスキルじゃない。
ドッペルゲンガーなんてもう使い古されたネタだぜ」
「へえ、僕が知らない人間だな。
名前、僕にも紹介してくれよ」
「おや征十郎君達は君の世界にいない人間かい?」
「まあね。ちなみに僕が通う学校は箱舟学園だ。
名前が着ているブレザーから察するに君と同じ中学校の生徒か。
はてさてそんな制服を着た"悪平等ぼく"の端末がいたかな・・・」

悠然と笑いながら此方を見る、名前に瓜二つでセーラー服を着た少女は何か考えているのか。



「・・・つまり、安心院とは別の人間というわけか?」
「その通りだぜ、流石緑間君察しが早くて助かるよ。
ああ、彼は緑間真太郎君、赤髪の男の子は赤司征十郎君だ」
「へえ、初めまして。
僕は安心院なじみ、もしかしたら其処の僕から聞いているかもしれねーけど、僕の事は親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」
「・・・おい安心院、本当に血が繋がっていないのか全くお前と同じ事を言っているぞ」
「しつこいな緑間君、僕に家族なんているわけねーだろ。」

緑間は頑として安心院さんと呼ばないつもりらしい。
新緑の瞳には疑念の色が強く出ているのが手に取るように分かった。

「おい赤司、お前からも何か言ったらどう、・・・・・・赤司?」

先程から何かを発するわけでもなくただ柘榴色の瞳を名前となじみに向けるだけの赤司に緑間達三人分の視線が突き刺さる。

しかしそれでも尚、彼は身動きひとつしなかった。

「赤司?おい赤司!」
「・・・緑間!此処は天国か!?楽園か!?」
「おい安心院これは一体どういう事なのだよ」
「いや僕に聞かれても」
「名前が二人いるんだぞ!?
これぞ両手に花じゃないか!」
「赤司、悪いことは言わん、病院に行け」
「何わけの分からない事を言っているんだ緑間」
「オレは問題ない。それよりもお前の事なのだよ」

何に興奮しているのかは想像に任せるが今の赤司は明らかにおかしい。
緑間は赤司の謎の気迫に一歩後ずさりつつ、この場をなんとか出来るであろう名前となじみは傍観するだけで手出しをすることはないようで。

「っ安心院!赤司をなんとか、」

「いやだね」
「面白そうな事になりそうじゃないか、なんで止めないといけないんだい?」

けらけらと確信犯の如く笑う少女二人に緑間の口角が引きつる。
結局事態が収束したのは半刻経ってからの事だ。

  愉快犯ふたりが揃うと事態は収束するのも一苦労。

意外と難しかった作品です。
どっちが主人公なのか管理人も分からないという・・・。
扇様、リクエスト有難う御座いました!

20150407