企画 | ナノ

きっかけは本当に偶然だったと思う。

他の人間が聞けば九割以上の確実で二度聞きされるのは確実だと分かっていた。



「まったくどーでもいいことでいつまでモメてるつもりなんだか。
僕から見れば全員平等にただのくだらねーカスだってのに」


それまで一人の生徒に対し親身に接する、所謂優等生の顔をした少女の顔が一変し、この世界において一番、誰よりも見下しているのではないかと思う位、昏い顔だった。
  

「光も闇も正義も悪も毒も薬も勝ちも負けも強さも弱さも黒も白も成功も失敗も幸福も不幸も―――本当は全部同じものだってどうしてみんな気付かないのかなあ・・・・・・」


顔を軽く上げ、完全に見下した表情のまま。
俺の位置は彼女から絶対に見えない筈なのに、視線を一切ずらさないまま衝撃の言葉を言い放ったのは記憶に新しい。

「其処にいる優等生で有名な花宮真君、君も僕に用があるのかい?」
「・・・っ!!」

赤みがかかった瞳がオレにとてつもなく恐怖をもたらす。
中学時代、かつて先輩に感じた感情を上回る位の恐怖。


「なんで、オレの居場所が分かったんだよ」
「そんなの簡単さ『欲視力パラサイトシーイング』で見付けたからに決まってるじゃないか」

欲視力パラサイトシーイング』、相手の見ている視界を盗み見るスキル。

不気味に笑う少女に固唾を呑む。
一瞬でも隙を見せたら最後、食われてしまうのではないか、なんて。
そんな妄想が頭に過ぎった。


それがファーストコンタクト。



  △▼△



あの衝撃的な出会いから数日。
あの女の正体が安心院名前で人外という噂が付き纏い、もう二度と会わない事を祈って屋上の扉を開けようとした瞬間、目を疑った。


「・・・・・・・・・は?」
「やあ花宮君、一週間ぶりだね。
豆鉄砲食らったようなカオをしているけどどうかしたのかい?」

けらけらと笑うこの女は実はオレの幻覚で、今見ているこの光景も白昼夢か何かじゃないかと思ったのだがどうやら現実らしい。

花宮は白目を剥きながら只管茫然とそれを見る。

「お前が持ってるそれって、」
「?サッカーゴールだけど」
「何処の世界にグラウンドにある筈のサッカーゴールを片手で屋上まで持ってくる奴がいるんだよ!?」

悲鳴が空に虚しく響く。
渾身のツッコミだったが安心院名前はけらけらと笑うだけで真剣に取り合ってはくれなかった。


そんな馴れ初めを繰り返してから、現在。
なんでオレはコイツに惚れたんだろう・・・。


「わっはっはっ、きっとそれはあれだろうさ吊り橋効果じゃないかな」
「一応オレとお前は恋人だよな、付き合う理由それで良いのか?」
「別にどうでも良いさ理由なんて。
初めて会った時に言ったじゃないか、僕の前では押しなべて全て平等なんだよ」

艶やかで豊かな髪が靡くのを見つつ花宮は舌打ちしそうな位顔を歪める。

「まあ機嫌を直し給えよ、此処は一つ恋人らしくアイスを二人で分けて食べようじゃないか」
「・・・・・・ただ単にアイス食いたかっただけだろうが」
「そんな事はないさ、被害妄想甚だしいな」

こうやって見ていると初めて会った時の顔と台詞が夢か何かだったのではないかと思う時がある。
だけどやっぱりそれこそ嘘で、彼女は心の奥底では誰よりも見下しているのだと痛感する。
例外など誰一人いやしないのだと、それこそ名前の幼馴染だという赤い彼さえも。



「全く疑り深いな花宮君。
じゃあこうしたら良いかな?」
「あ?」

ずらしていた視線を名前に戻そうとした矢先。
視界いっぱいに赤銅色がかった髪が映ったと思ったのと同時に唇に何かの感触が伝わったのが分かった。

けらけらと笑う彼女の声に怒号を飛ばす。
しかし不意打ちも相俟って赤面した彼に迫力の文字はない。
それが余計に名前の笑いに繋がり、声が徐々に大きくなる。
そんな悪循環にも似たやり取りがしばらく続いたのだった。

  悪童も彼女にかかれば形無しです。

睦月様リクエスト有難う御座いました!
基本『虹色』主人公は何枚も上手なので後手に回る事は無いと断言します。
こ、こんな感じで良かったのかな・・・。

20140929