企画 | ナノ

!未来ネタ
!子供のデフォルト名:紫苑



名前の基本的な性格は大胆不敵、物怖じしない、物事に深く関わろうとしないといった一般的な人間から少し、否大分かけ離れたものである。
見た目は本当に儚さを体現化させたような、守りたくなるような人形めいた少女なのに性格は本当にそれを壊している。

しかし彼女にも苦手な物が存在する。
真夏の直射日光、暑さ、甘味。

そして、


「・・・・・・名前、そんなに怯えなくても良いだろう」
「わ、分かってるわよ」

恐る恐る紅葉のような掌に自分の手を触る己の妻に真斗は気付かれないように嘆息する。
蒼銀色の長い髪、青灰色の瞳。
いつも無表情が常の彼女の表情は現在、未知のものにどう対応したら良いのかという困惑の色が見え隠れしている。

真斗も名前もお互い愛情というものに恵まれずに育った。
一心に愛情を向けられるとひどく動揺してしまうのが彼女で、実際真斗から親愛ではなく異性として求められた時も同様だった。

蒼銀色の髪は今でもトラウマだ。
何せ自身が実の両親に愛情を注がれなくなってしまった決定打なのだから。


「・・・・・・」
「どうだ、温かいだろう」
「・・・・・・そう、ね」
「たった一人の娘だ、幸せにしないとな」
「・・・・・・しあわ、せ、」
「名前、お前が不安だと子供も不安になる。
そんな顔をするなとは言わないがせめて俺と二人きりの時にだけ見せてくれ。
何かあったら俺がいるし、一ノ瀬や神宮寺達もいる」
「・・・・・・」
「お前は一人じゃない。傍にいると、約束しただろう?」

片手では紫苑と名付けた赤子を、もう片方の手でゆっくりと蒼銀色の髪を梳く真斗の深海を切り取ったような瞳はこれまで見た事がない程穏やかで。
名前は俯く事で自分の表情を見られないようにする。

不覚にも泣きそうになった、なんて絶対内緒だ。
脳裏によぎるのは、あの時の言葉。
覚えているだなんて思わなかった。
その場しのぎの、軽くて安っぽい言葉だと疑わなかったから、このタイミングでそれを言うのは絶対に卑怯だ。

「ずっと傍にいるから」

その言葉に依存してしまっているんじゃないか、なんてそんな事、



  ♪



「・・・・・・真斗、何この装備は」
「む名前か。装備ではない、ただ今日に必要な道具だ。
今日は何の日か知っているだろう?」
「何かしら」
「今日は紫苑の初めてのお使いの日だ!」
「・・・・・・お使いでそんな大袈裟な道具必要無いと思うけど」
「何を言うか!
良いか名前、俺の時はお前という幼馴染がいたからこそ俺は一般の方々の生活を学び、且つスーパーやコンビニがどういったものなのかを知ったんだ!
だが紫苑にはそう都合良く幼馴染といった適任者がいない!
だから俺はこういう機会をだな」
「つまり紫苑のお使いが気になるから着いていくという事なんでしょ」

ばっさりと切り捨てた名前は相変わらず容赦がないが真斗は全くダメージを受けている様子が無い。

「大体貴方真衣がいるのだからどうすれば良いか分かるでしょ?」
「だからこそだろう」
「・・・」
「真衣もだが紫苑も天使のように可愛いらしいではないか、容姿は名前似だからな、きっと周囲の男も放っておく筈が無い」
「容姿が私似だからってそんなの関係無いと思うけど。
・・・紫苑に好きな人が出来たって言われたら貴方どうするの?」
「は!?」

蒼銀色の睫毛に縁どられた青灰色の瞳に胡乱気な色が宿る。
自分は色々な人間から冷たいと言われているが真斗が親馬鹿なので丁度釣り合いは取れていると思いたい。


瞠目させた状態で固まる真斗と胡乱気に見つめる名前。
そんな二人に声をかけたのは彼等の一人娘、紫苑だった。

「とーさま、かーさま、じゅんびができました!」
「そう、じゃあ買い物に行きましょうか」
「はい!」
「・・・待て名前どういう事だ」
「このまま紫苑を一人で行かせたら貴方心配のあまり暴走しそうだったし、それなら店の前まで着いていこうかと思って」

一種の折衷案みたいなものだと平然と宣った妻に真斗は俺も着いて行くと言うまでそう時間はかからなかった。







「・・・ということがあったんです!」
「・・・・・・ふ、ふふ・・・そ、そっか」

小刻みに笑いを堪えようと奮闘するのは彼女の父親のもう一人の幼馴染、神宮寺レン。
その時の様子を想像したらまた笑いが込み上げてくるのを堪えつつ、レンは紫苑に向けて微笑する。

「それで?一体何を買ってくるように頼まれたんだい?」
「ほっとけーきみっくすとめーぷるしろっぷと、」
「うんうん」
「あとかーさまがあまったおかねでおやつをかってもいいよっていってくれたので、あいすをかっちゃいました!」
「そっか、それはよかったね」
「はい!なのでレンくんにもおすそわけです!」
「・・・・・・えオレにもあるの?」

今とってきますね!とぱたぱたと走っていく後ろ姿にレンは一瞬面食らったような表情を浮かべた。

「・・・・・・銀髪碧眼の容姿は間違いなく名前似だけど中身はアイツ似みたいだね」

満面の笑顔に一瞬息を飲んだ。
同じ容姿を持つ母親は基本無表情だから笑顔というのは希少価値が高く、それこそ何度も見ているのは養父と幼馴染の真斗位だ。
だからこそ二人に子供が出来たと報告された時は大丈夫かと不安にもなったけど。

『神宮寺聞いてくれ、名前と俺に子供が出来たんだ』

そう報告された時の、彼の穏やかな表情が今も脳裏に残っている。


「レンくん?レンくん、だいじょーぶですか?
きぶんがわるいとか、」
「っ大丈夫だよ、ちょっと考え事をしていただけだし」
「そうですか?」
「うん。・・・ああアイスを持ってきてくれたんだね、ありがとう」
「はい!」

アイスの袋を破りながら紫苑の銀色の後頭部を見つめる。
そしてずっと気になっていた事を問いかける。
この少女の両親が来る前に。

「紫苑、君は今幸せかい?」

唐突な質問に一瞬きょとり、と目を瞬かせる紫苑だったが次の瞬間には破顔の表情に変わる。
満面の笑顔に。

「はい!とーさまもかーさまも、まいおねえちゃんやおじーさまたち、レンくんもいてわたしはしあわせです!」

その言葉を聞いて真斗が飛び出してくるまで後二秒。

  いつか訪れる未来へ

まさかこの二人の未来ネタがリクエストで来るとは・・・!と感動しながら書いてました。
『乙女』主人公と真斗は二人共『愛情』というか普通に育ってきたというわけではないので『子育て』というのがよく分かっていないだろうなと思いました。
なので他の人より手探り状態で、自分の時はどうだったか、という経験談が使えないという。
沙羅様、『乙女』をお読み頂き有難う御座います!

20140929