企画 | ナノ

「兄さん、今日友達に誘われたからバスケ部の見学に行ってくるね」
「・・・分かった。そうだ名前、例の物は持ってるよな?」
「勿論!デジカメと予備のSDカード、スケッチブックと筆記用具はバッチリだよ!!」
「よし、それでこそ俺の妹だ」

色々間違ってる、と力強く突っ込んだのは堀か千代か若松か。



  □■□



今度兄の漫画にて鈴木がバスケ部の助っ人として出るという粗筋を立てたので鈴木のモデルである氷室を観察すべく急遽名前がバスケ部もとい氷室の元に訪れたのである。

ちなみに野崎名前は漫画家の兄、そしてやれば出来ると定評のある弟を持つだけあり非常に絵が上手い。
模写やそれを応用しての人物のデッサンも人並み以上。
だが非常に優秀なのにも関わらず何故か美術部には入っていない。

理由は家事をしないといけないから時間がないとの事。

そんな彼女は容姿の美醜に興味無く、自身の恋愛に関してもどうでも良さ気な性格だ。
その性格が功を成したのか、今回のバスケ部の合同練習の見学も許可を貰えた名前は全体がよく見える位置を確保する。


すると其処でふと黒い影が名前を包み込んだ。


「名前ちゃん、おはよう。其処で見学するのかい?」
「お早う御座います氷室先輩。
はい、ボールに気を付けて見学させて貰いますね」

長い黒髪を束ねる為に取り出した髪留めに氷室は夜色の瞳に喜色の色が宿る。

「その髪留め、」
「え?あ、はい!氷室先輩に貰った髪留めですよ、可愛いのでいつも付けてます!」
「・・・・・・ッッ!!!」
「・・・室ちん、痛い痛い止めて、悶えるのは勝手だけどそれをぶつけるのは止めて」
「あ、紫原君おはよう」
「おはよー名前ちん」
「・・・それでその、氷室先輩・・・どうかしたのかな」

二人の視線の先には何かを訴えるかのように紫原の背中を叩く氷室の姿が。
黒髪から覗く彼の耳は若干赤いのは見なかった事にしよう。
紫原は一瞬氷室に目をやるも何も答えない。
下手な事を言って寿命を縮める真似はしたくない。


「・・・・・・さあ?
ちょっとした発作だよ。名前ちん、そっとしといてあげて」
「え発作!?だ、大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫」

むしろ名前ちんが原因だし多分治せるのもこの子だけなんだろうなあ。

そう漠然と思いながら本日の合同練習をする誠凛を含めたキセキの世代獲得校が揃うのを紫原は暴走しかける氷室とクラスメイトの名前と共にいたのだった。



  □■□



カリカリカリカリカリ、


「・・・・・・」

「・・・・・・」


カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ、


「・・・すっごい集中力だねーもう一時間位あのままじゃないのー?」
「・・・何というか彼女の周り、真っ白過ぎて逆に怖いですね」
「紙で埋め尽くされる勢いっス」

女子特有の甲高い声で何かを叫ぶというわけでもなく、本当にひたすら何かを描き続ける彼女からは近付くなというオーラを撒き散らせているのが分かる。
彼女の周りには何枚、何十枚と何かをスケッチした紙が散乱している。

何故彼女がこうまで一心不乱に描き続ける理由を知っているのはこの中では火神のみだがその火神はといえばせっかくの休憩時間なのにも関わらず青峰と一対一でバスケをしている。
休憩時間とは一体何なのか。


繰り返すが彼女の特技は写真を切り取りスケッチブックにそのままはめ込んだかのように、忠実に模写できる点である。
勿論応用も聞く。
だが彼女の真骨頂は一つのデッサンにつき基本三分以内で完成させるという速筆である。

たまに手が疲れた時は休みも兼ねて写真を撮ったりして基本声援を送る事は一切無かったのでバスケ部員の好感度は急上昇していた。


「ちょっと私野崎さんのところに行ってくるね!」
「え桃っち!?」

黄瀬の叫び声も虚しく、桃井はさっさと名前の元へと駆け寄っていったのだった。




「野崎さん!」
「・・・・・・?」


ふと声の主を見ると其処には桜色の髪と瞳を持った美少女がいた。
爛々と輝くその瞳は自分と同じアシスタント仲間の千代を思い出す。
・・・ではなく。

「・・・えっと、」
「私桃井さつきっていうの。
野崎さんの描いてる絵を見せて欲しいなあと思ってきたんだけど良いかな?」
「・・・ああ、えーとそうですね見せられるものといえば・・・」

今持っているスケッチブックを置いてガサガサと散乱しているデッサンで一番無難なもの、と探している名前の後ろ姿を桃井は観察する。

背中の半ばまである長い黒髪を女の子らしい髪留めで簡単に括っており、見目麗しいと言っても良いだろう。
黒色に近い制服と下に履いているタイツと相俟って全体的に黒色で統一されているその姿は非常に印象に残りやすい。

「・・・あの、此処にある画材を纏めるね」
「うん?ああ、はい、助か・・・いや待って待って本当に待って!!」
「え?」

がさり、

そう言って桃井の手には何人もの選手のデッサンが描かれた紙の束が集まった。
しかし桃井の目を奪ったのはそのどれでもない。
桃井と黒子のツーショット。しかも何枚もある。

ページをめくると違うアングルが。しかも妙に距離が近く、一見すると恋人同士に見える。


・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


それは痛い程の沈黙だった。
沈黙を保ったままの桃井に名前は戦慄した。
見ず知らずの人間に勝手にデッサンされていたら良い思いはしない筈だ。

名前は内心ガクガクと震えて桃井の反応を待つ。

「・・・・・・・・・・・・野崎さん、ううん名前ちゃん」
「(名前呼び!?)は、はい?」
「このテツ君が描かれたデッサンと、私とのツーショットのデッサンを全部私に下さい、ううん言い値で譲って下さい!!」
「・・・・・・・・・はい?」

ずっと俯いたままだった桃井がいきなり顔を上げ、先程よりも爛々と輝かせた瞳に名前は狼狽するしかなかった。






「・・・・・・おいどういう事なのだよ、桃井が行ったきり帰ってこない」
「じゃあ次はオレが行ってくるっス」
「黄瀬ちんが?それ止めておいた方が良いと思うけど」
「どういう事っスか紫原っち」
「うんまあ・・・平たく言うと名前ちんにはおっかない人がついているからねって話?」
「何故疑問形なんですか」
「いやだってさー黒ちんもそのうち分かるって」
「・・・よく分かんないけど行ってくるっス」

野崎名前は容姿で感情をどうこう振り回される人ではない。
モデルというステータスを持った黄瀬を相手にしてもそれは変わらないだろう。
何せ自分の相棒は帰国子女で英語が堪能、更に眉目秀麗、運動神経抜群という誰もが羨む人物だ、その彼が贈り物をしようとも自分に気がある等と露にも思わない強者である。

・・・いやその前に黄瀬にはもう相手がいるからそれは無いか、と紫原は思い直した。
そして溜息混じりにその相方に呟いた。

「・・・だからさ、あの名前ちんが室ちんが心配するような事は起こらないって」


それから数分後、桃井の時と同様、黄瀬は自分と黒子が仲睦まじく描かれたツーショットを見てすぐに陥落したのは言うまでもなかった。


「っっオレこれから名前っちって呼ばせて貰うっス!!」
「へ?」
「だからこのデッサンオレに下さい!」
「・・・・・・・・・」


「・・・おいどういう事なのだよ、黄瀬も帰ってこないぞ」
「むしろ桃井さんと一緒に詰め寄って見えますね」
「室ちん、止めて、問題は起こさないで」
「え、何の話?」
(あ、ダメだ詰んだ)

黄瀬に笑顔なのに目が笑っていない氷室からの怒りの鉄槌が下るまで後、

  彼女の背後にご用心  

柚月様お待たせしました、今回も企画に参加して下さり有難う御座います!(*^^*)
柚月様も野崎くんをご存知だとは・・・!野崎くん面白いですよね!
アニメも爆笑しながら見てました(笑
リクエスト内容ですがこんな感じで宜しかったでしょうか?
これからもよろしくお願いします!

20140929