企画 | ナノ

!片想い



野崎名前にはトップシークレットが一つ存在する。
一つは少女漫画家のアシスタントをしている事なのだが知る人は極僅かであるが氷室がそれを知ったのは最近の事だ。



  □■□



「名前」

インターフォンから紡がれた低い声。
名前はその声にぱっと喜色の表情を浮かべ、ぱたぱたと忙しなく廊下を走った。
がちゃりと開けた其処には赤みがかかった男子生徒が一人佇んでいた。

「かがみん!」
「だからそのあだ名で呼ぶなっつーの・・・。
ほらこの前約束したヤツだ」
「ええー良いじゃない"かがみん"。もう定着してるから今更変えられないよ。
あっ約束覚えててくれたんだよね!ありがとー!
今日は何かなー楽しみ!」
「変な期待すんなよ、大したものは作ってねーし」
「何言ってるの、作り手は皆そう言うんだよ!
あ、ちゃんと洗って返すから安心してね!」

満面の笑顔を向けられた火神は照れくさそうに顔を逸らして耳の裏をかく。
褒め慣れていない為、こうやって直球に向けられるとどうして良いか分からない。
同じように育った筈なのに一つ年上の兄貴分はどんな時でも余裕の表情を崩さないのだから本当に狡く感じる。

「・・・・・・まあ、喜んでくれたら何よりだけどよ」

火神は未だ上機嫌な名前に対し、そう返すのが精一杯だったのは言うまでもない。

そしてこれが今回の騒動のきっかけである。




「ふんふふふーん」
「名前ちんご機嫌だね、何か良い事あったのー?」
「実はそうなんだよ紫原君!
紫原君風に例えるとそうだなーお菓子が大量に降ってきたとかかな」
「何それ超嬉しい」
「でしょ!?」

ほくほくとお弁当を広げる名前とその隣りでお菓子を食べ続ける紫原。
一見恋人同士のような関係に見えるが実際は友人関係である。
第一、彼女は紫原の部活の先輩の片想いの相手だ。
手を出した瞬間、彼の怒りの鉄槌が下されるのはバスケ部にとっては周知の事実であるのだが幸か不幸か、名前はまだそれを知らない。


「でさー結局何があったわけ?室ちん関係?」
「何で其処で氷室先輩が出てくるのか分からないけど・・・紫原君、聞いて驚かないでね!なんとこのお弁当かがみんの手作りなんだよー!!」
「なーんだそんな事k・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

茫然。
紫原は全く予想だにしなかった発言に耳と頭を疑った。

・・・・・・今なんて言ったこの娘。

ぼとりと落としてしまったお菓子にも気にも留めない紫原に此処でようやくきょとりとした表情を浮かべる彼女。
傍から見たら奇妙な光景であるが誰もそれに突っ込まない。


「・・・名前ちん、オレ幻聴を聞いた気がするからもう一回言って」
「え?えーと・・・このお弁当は手作りなんだよ・・・?」
「誰が誰への手作り?」
「かがみんが私への・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・む、紫原君?」
「名前ちんそれ絶対に室ちんに言っちゃダメだからね」
「え?」
「ダ メ だ か ら ね ?」
「は、はい」

紫原から発せられる謎の圧力に名前は一秒と保たずに屈した瞬間だった。
だがしかし紫原にも言い分はある。
片想いの相手が弟分から手作り弁当を手渡されていた等と知ったらどうなるか。

高確率で部活の時間が大荒れするだろうと予想するが間違いではない、筈だ。
水面下でこんなやりとりがあったという事も知れず、他に部員に関してはいつも通り練習をしつつ名前はその日の夜、兄に手作り弁当の件について話したのだった。

「っていう事があったんだよ!」
「成程・・・つまりこういう事だな」
「?」

かきかき、と兄が何かを書き、それを手渡されたのは数枚のラフ画。

「・・・・・・」



  □■□



目の前にずい、と渡されたひとつの弁当。
そのお弁当にきょとりと目を見開かせる一人の少女。

『これって・・・?』
『あ?何言ってんだよお前が前に欲しいって言ったから作ってきたんだろ』
『・・・!!そんな・・・』

笑うマミコ、照れくさそうにそっぽ向く一人の少年。
喧嘩で距離を置いている鈴木に突如現れるライバル。
鈴木、危うし!


そのアオリを見て沈黙する名前とやりきった表情を浮かべる兄。
沈黙の末、名前は震えるような声をあげた。

「・・・兄さん?」
「丁度鈴木を脅かす新キャラを出そうと思っていたんだ!
名前ありがとう!」
「・・・・・・・・・」

見れば分かる。
その新キャラの容姿のモデルが火神である事が。

そしてこれは知る人ぞ知る事実だがヒロインの髪型を含めた容姿のモデルは千代だが、髪の長さやどういう動作をしたら髪が靡くのか等そういった事に関しては名前が実際に動いて描かれているのは極僅か知らない。
なので。
とある件でその事を知っており、尚且ヒロイン(マミコ)のモデルは名前であると勘違いしたままの氷室がその事であらぬ誤解を招くのは当然の結果と言えた。





ちなみにその頃の兄貴分と弟分はというと。

「タイガ・・・これは、一体、どういう事かな?」
「いきなりやってきていきなりボディーブローかましてきて一体何の話だよ!!」
「名前ちゃんに一体何をしたのか一から丁寧に話せって言ってるんだ」


「・・・・・・あ、夜分遅くにすみません。
あの野崎さん、今月号の話で少しお話があるんですけど・・・」

火神の悲鳴を背中で聞きつつ、事の顛末を聞くのはやはり黒子の役目だった。

  優秀なネタ提供者

微妙にリクエスト内容が違っててすみません(汗
800,000hit企画初のリクエストがまさかの『青空』だったので吃驚したのは秘密です(苦笑
リクエスト有難う御座いました!

20140929