企画 | ナノ

!黒子時間軸:WC決勝戦後
!目高時間軸:言彦打破前?


「貴様達が、安心院さんと仲が良かったという者達か?」

そう言って。
いきなり、突然、突如現れたのは紫がかった短髪で擦過傷がいくつかある自分達と同じ位の少女。

少女は名乗った。

黒神めだか。箱庭学園の一生徒だという。
その学校名は聞いた事があった。
人伝てに、進路選択の時に、雑誌にて。
あらゆる情報ネットワークから聞いた事のある学校名だが彼等―――キセキの世代が知っているのは一人の人外から聞いていたからだ。

その人外の名は安心院名前。
箱庭学園を創設したのが彼女だから、知っていた。
ただそれだけの事。

だが、その生徒が何故自分達に会いに来たのか皆目見当がつかなかった。
名前に関係しているのか。
だが何故本人がこの場に、この体育館に来ない?
何故、どうして、という疑問は尽きない。

「・・・あの、安心院さんがどうかしたのですか?」
「・・・落ち着いて聞いて欲しい。
安心院さん、・・・安心院名前は、数日前に」

沈痛な顔で一言、めだかは告げる。
残酷で冷酷で、冷徹な一言を。


「死んだ」




  △▼△



めだかがそう告げると同時に、手に持っていたものをキセキの世代の目前に晒した。
それは黄色のリボンでくくられた艶やかな髪の一部。
鋏で切られたのか、綺麗に真っ直ぐに切断されている。

めだかの言葉を信じるならそれは、間違いなく遺髪だ。
その事に一番早くたどり着いたのはやはりというか赤司だった。


「―――嘘、だ」
「・・・赤司君?」
「嘘だ嘘だウソだ嘘だうそだ、うそ、だ」
「いくら私とてこんな嘘は吐かん。・・・これは事実で、現実だ」
「名前が死んでも死なないのは知っている!
不老不死のスキルを使って永遠を生きている名前が死ぬものか、死んでたまるか!」
「赤司落ち着くのだよ!」
「離せ緑間!名前がそんなくだらん嘘を吐く筈が無い!そんな理由も無い!!」
「赤司!」
「だからその髪も偽物だ!!」
「これは安心院さんの、正真正銘の遺髪だ」
「―――黙れ!」

悲鳴が虚しく木霊する。
ぎりぎりと心臓が嫌な音を立てる。
何かが崩れてしまいそうだ。

それは自分の足元か、それとも心か。

ぐらりと揺らぐ視界の中、それでも尚赤司はめだかの顔を見る。

―――其処には冗談という文字など一切映していない瞳があった。

それだけで―――悟った。
この世にもう彼女が、不敵な笑みを浮かべて事態を眺めるあの人外な幼馴染が、想い人がもういないという事を。


「名前名前名前、名前・・・!
オレを、置いていかないと約束しただろう・・・・・・!?」

体育館に赤司の必死で慟哭のような声が虚しく響いて消える。

痛い程の、それこそ血を吐くような声。
死んでしまった彼女を名前で呼ぶのはめだかの中では二人目だ。
つまり、赤髪の彼にとってそれだけ名前が大切なのだろう。
一人目の、空色の髪を持つ人外の青年と同様、否もしくはそれ以上に。


「・・・あの黒神さん。安心院さんが死んだという証拠はあるんですか?」
「黒ちん?」
「どういう事だ」
「貴女が持ってきたその遺髪は、確かに一見安心院さんのものと思えますが本当に安心院さんのものかボクには分かりません。
なので他の証拠を見せて頂きたいのですが」
「・・・確かにそれは尤もな言葉だが流石に死体を見せるわけにはいかん。
だがしかし抜け目の無い安心院さんの事だ、きっと彼女の口から語られるだろう。
これは球磨川も体験したという事らしいしな」
「・・・球磨川?」
「いや何でも無い。・・・私の役目は此処までだ。
後は安心院さんと貴様達に任せる」
「はあ!?」

黒神めだかが特大の爆弾を放り投げ、その後片付けもしない内に帰った為収拾が大変だった。
特に極大に取り乱した赤司を落ち着かせる為、黒子達はあの手この手と宥めていくのだが最終的に落ち着いたのは六時間後の事だったりする。



  △▼△



黒子の場合。

「やっほー黒子君。
君が今この教室で僕と会っているという事は、僕はきっともう死んでいるのだろうね」
「安心院さん!?」
「ホントは君達に言い残す事なんて何も無かったんだけど、君達の事だきっとめだかちゃん達が僕の最期を知ったところで簡単に信じないだろうと思って一応ビデオレターみたいなものを残しておいた。
当然、ビデオレターという点から僕には君の事が見えないし聞こえない。
言わば僕は残像だ。従って残像院さんになるのかな―――わっはっは。
さてそれらを踏まえて、そのつもりで接してくれ」
「っ安心院さん貴女は、本当に」
「聞こえない。君達の声なんて、聞こえない」
「貴女は本当に、死んだのですか」
「ごめん、残像だから聞こえない。
だけどまあ黒子君の事だから何を言うか予想は付く―――だから敢えて答えようかな」
「・・・」
「この世で等しく平等なのは死だ。
それは人外の僕でも平等に訪れた。
半纏には自殺志願者だなんて言われたけど・・・まあ過ぎた事だ。
三兆年も生きたから僕には死んでも残すような未練は無いのだが、」

此処で彼女の笑みが深みを増す。
本当に死んだなんて思わせないような、そんな笑顔が黒子の視界に映る。

「君に遺産を残そうと思ったけど、君は多分スキルなんていらないと言うだろうし止めておく。
スキルなんて言うけどいわば個性と同義語と言っても過言じゃない。
だから、僕は一足先に向こうでのんべりだらりと過ごすとするよ」
「安心院さん、」
「だから聞こえないって。ばいばい黒子君」



  △▼△



赤司の場合。

「やっほー征十郎君。
君が今この教室で僕と会っているという事は、僕はきっともう死んでいるのだろうね」
「・・・名前?」
「言っておくが今君が見ている僕は残像だ。
京が一の場合に備えて用意したビデオレターみたいなものでね。
此方からは君が見えないし会話も出来ないからそのつもりで接してくれ」

黒神めだか。
黒神。黒神グループ次期総帥のあの女が持っていた遺髪は、目の前の教卓に座る彼女の髪と重なる。
・・・残像だからか。
ならば目の前の彼女はさしずめ残像院さんと呼ぶべきか。


「僕が死んだという事を一番認めなさそうなのは君だと思ったんだ。
だから僕の口からちゃんと伝えておこうと決めていた。
―――僕は死んだ。
不老不死のスキルを持つ僕だけど、死んじゃった」
「名前」
「さて、三兆年も生きたからね、僕には死んでも残すような未練は無いのだが。
しかしながら遺産を残しておくとする。
僕が生きた証だ、受け取ってくれ征十郎君」
「遺産・・・?」

す、と取り出されたプレゼント仕様の小箱。
そ、れは。

「本当は一京のスキルを全てプレゼントしたかったんだけど吟味した結果征十郎君が使えそうなスキルはやっぱりこれしかなかった。
(半纏に頼んで作って貰ったものだけど)なのでこの一つを受け取ってくれ」

差し出されたそれに赤司は受け取る。
残像と彼女は言った。
彼女は嘘を好き好んで言う性格ではなかった(思わせぶりな事は好んで言っていたけれど)
生きていたらきっとこんな形で会話なんて、―――否これは一方的な会話と言っても良いだろう―――今の状況を作らなかった。

「中身は言わずもがな『天帝の眼エンペラーアイ』だ。
欲視力パラサイトシーイング』でも良いかなと思ったんだけど・・・あはは人吉君に貸しちゃってそのまま不知火ちゃんに喰い改められちゃったからね。
消滅してしまったみたいだけどそんなの半纏にかかれば関係無い。
かつての所有者である君だからこそ渡そうと決めたんだ」
「・・・名前」
「さあこれを受け取ってこの教室から出るんだ、征十郎君。
僕が言えた義理じゃないけどいつまでも深層心理にいたらいけないよ」
「名前!」
「・・・何かな征十郎君」
「お前は、本当に死んでしまったのか」
「ごめん、残像だから聞こえない」
「もうこの世の何処を探しても、いないのか」
「ごめん、残像だから聞こえない」
「オレにはお前が必要なのに、」
「 聞 こ え な い 」

掛け値無し虚勢無しの、偽り無き本音。
いつの間にか隣りにいてくれた幼馴染特権を此処で赤司は使った。
尤も名前はそんな事、気にもしていないだろうが。

「残像だから聞こえない―――まあ君の言いたい事は何となくだけど分かるので答えよう。
征十郎君の事だから僕が死んだという事実を受け入れてはくれないだろう。
だけど君はそうやって現実と向き合わないつもりかい?
僕の死を踏み台にして精神的に強くなれよ。
君はまだ精神的に弱い。
そんなんじゃ球磨川君にこてんぱんにやられちゃうぜ。
・・・生きろよ征十郎君。
僕の気は恐ろしく長いから百年位待っててあげる。
まあ気紛れを起こさなかったらだけど・・・だから一年や其処等・・・数日中に"こっち"に来たら怒るからそのつもりで過ごしてくれ」

ふわり、と名前の両手が赤司の首筋に回る。
一瞬だけ赤司の肩が震えたが名前は気にした素振りは見せなかった。

「君が"  "のように可愛くて"  "のように愛しかった。
だから―――」


夢が終わる。
優しくて儚くて、だからこそ残酷な夢。
赤司はその夢を心の片隅に置いて現実世界で今日も"今"を生きる。

  夢の終わり、終わる夢

話の都合上と言いますか『虹色』本編で(キセキとか関係無しで)一番色濃く主人公と関わっていたのは赤司と黒子だったと思ったのでこの二人をメインに書いてみました。
最後の主人公の空欄は皆様のお好きな言葉を埋めて下さい。
企画に参加して下さり有難う御座いました!

20140627