企画 | ナノ

!本編終了後



名前はぼんやりと学校の屋上にて一冊の少女漫画を読んでいた。
内容は三角関係。昼ドラのような展開をある程度読んだところで名前はぱたん、と静かに本を閉じた。


(無い無い無い無いこんな展開が現実に起こるなんて。
というよりもっと上手くやれと言うべき?否その前にこんなややこしくなる前に何とかするべきか。
・・・うちには恭弥がいるしそんな事になったら問答無用でトンファーが振り落とされるのがオチか)

遠い目でそんな事を考える名前を誰が予想できたのか。
否、その前にかつて不良の頂点と言われた雲雀名前が少女漫画を読むという事自体が驚きだ。

「・・・」

ぼんやりと羊雲を数えながら名前は屋上に寝転んだ。
それから数秒後、独特の音―――携帯のバイブ音が名前の耳に届いた。

「・・・和成君?」

携帯のディスプレイには自身の想い人兼恋人の名前が表示されている。
名前の黒曜石の双眸が僅かに瞬いた後、静かに受信ボタンを押した。


「和成君?」
『あ名前ちゃん?今何処にいんの!?』
「いつも通り屋上にいるけど」
『屋上!?あー・・・其処は盲点だったわ、名前ちゃんオレもそっちに行くからちょっと待ってて!』
「と言ってももう昼休みは終わ、」
『良いの!名前ちゃんと少しでも一緒にいたいっていうオレの我儘なんだからさー』
「・・・・・・な、」

きょとり、と名前の黒曜石が丸くなる。
冷静さを取り戻すまでの一瞬の間に高尾からの電話は途切れてしまった為、携帯からは虚しく通話終了の音が響いた。


「・・・切れた」

「おーツナん時も思ったけどやっぱり学校って良いな!
屋上ってのはオレの好きな場所の一つなんだけどよ、名前もそう思わないか?」
「・・・・・・」
「あれ?名前?」
「・・・・・・・・・貴方何で此処にいるの」
「恭弥から聞いてないのか?
昨日恭弥に日本に到着したから今日遊びに行くってメールしたんだが」
「恭弥が貴方のメールを素直に読むと本気で思ってるわけ?」

この天然ボケがイタリアマフィアのボスなどと誰が信じるのか。
初見でそれを見事見破れる人がいたら是非とも教えて欲しいものだ。
現に今も太陽のような笑顔で名前を見ている姿はどの角度から見てもただの優男にしか見えない。
無論、某幼馴染から百合系女子と言われている名前は容姿に惑わされるような性格ではないが。


「・・・で?」
「ん?」
「日本に来た本当の理由は?」
「いやホントに遊びに来たんだって!
ま、ツナや恭弥に会いたかったっていうのもあるけどな!」
「へえ」
「勿論名前に会いたかったぜ?」
「・・・は?」


名前の眉間に皺が寄る。
雲雀姉弟の違いを敢えて言うなら沸点が低いか否か。
この点につきると双子の師、ディーノはそう断言する。
雲雀弟ならこの段階でトンファーが唸るところだが雲雀姉は弟と比べれば手足はあまり出さない方だ。
・・・ただ限界突破をすれば此方も容赦無くトンファーで滅多打ちなのは確実であるのだが。



「冗談言わないでくれる?
というより鳥肌が立ったんだけど、咬み殺しても良いかな」
「せめて疑問文にしろよ名前、つか女子がんな言葉言うな!」
「貴方の命令なんて聞きたくないよ」

ざあ、と風が吹く。
猫のように細く手触りが良さそうな黒髪と陽の光を連想させる金髪が靡いた。
頬にかかる黒髪を鬱陶しそうに首を左右に振った後、名前は胡乱気に目を細める。

「はー・・・相変わらず可愛くねー弟子だな。
見た目は良いのに」
「見え透いたお世辞だね。赤ん坊にでも恭弥にでも一発殺られてきたら」
「おまっ」
「それとも何?
いつかの恭弥みたく屋上で戦ってみるかい?」
「待て待て待て待て名前、流石にそれはマズイって!」
「戦闘に待つも何も無いよ。
・・・じゃあ行くよ」

軽い身のこなしで素早く鈍色のトンファーを構え突進する名前にディーノは口角をこれ以上無い位に引き攣らせた。


前言撤回、やっぱりこの姉弟荒っぽい。

ディーノはそう思いつつも迎撃する為にいつもの場所にある鞭を取り、鋭く振るう。

・・・が。



「がっ」

ごんっ

「・・・そういえば部下がいない貴方は障子紙程度の力が発揮出来ないんだったけ」
「いっててて・・・あれ?やっぱ今日は調子が悪いな・・・、なあ名前この鞭ほどくの手伝ってくれねえか?」
「貴方この状況で何言ってるの?」

名前は何処をどうやったら全身を鞭で絡めさせる事が出来るのか分からなかった。
変な方向で器用な男である。
・・・恭弥なら確実に呆れて退出するだろう。

「・・・・・・はあ。仕方無いね。
咬み殺そうと思ったけど今の貴方じゃ楽しめないだろうし、今回は見逃してあげるよ」
「溜息つくなって!おま、師匠に向かってそれは無、」
「誰が師匠?」

今度こそ呆れ返った名前だったが、仕込みトンファーの側部から突出する無数の棘を出す。
無言無表情でトンファーを構える名前の姿は逆光も相俟って恐怖倍増である。
ディーノは戦慄した。

「ちょっま待て名前、」


がちゃり、


『!』

顔面蒼白のディーノとトンファーを振り下ろす直前の名前は不意に響いたドアが開く音にピタリ、と動作が止まる。

「・・・」
「名前ちゃん遅くなってごめ・・・・・・、ってコレどういう状況!?」
「・・・和成君?」
「え名前知り合い?」
「ちょっマジ何コレ!?オレ何処から突っ込んで良いの!?
鞭にトンファーって、つか名前って呼び捨て!?
名前ちゃんオレというものがありながら、」
「説明するから落ち着いてくれるかな和成君!」
「なんだ、名前彼氏いたのか水臭ェじゃねーか。
こういうめでたい時って日本だと赤飯を炊くんだろ?
今晩は目一杯赤飯を、」
「出さなくて良い!!」

名前の心からの絶叫が屋上に消えた。

  屋上での攻防戦

お待たせしましたあああ!
今思えば『ヒバタカ』で両想いって難しいですね!
主人公の余裕を崩せば何とかイケるんですが今回はいけなかった模様(汗
十回半分位かは素で接している・・・筈。

柚月様いつも企画に参加して下さり有難う御座いました!

20140515