花雪シンフォニア | ナノ

「幽さんといえば!あのっ今日幽さんがこの近くでロケやっているらしいんですけど、一ノ瀬さん知ってます!?」
「・・・・・・羽島幽さん、ですか」

トキヤが簡単に自己紹介を済ませた後に舞流が放った言葉は上記の通りだ。

彼女の質問にトキヤは僅かに眉を顰めつつ、何と答えようか思考する。


彼女が今日ロケする事も、その場所が池袋である事も知っていたが、果たしてそれをこの双子に教えて良いものかトキヤは躊躇した。


・・・何故だろう、厄介事を持ってきそうな気がする。

悲しいかな、トキヤの勘が外れた事はあまり無い。
故に躊躇してしまうのだ。
万が一の事があったら。
そう思うと行動に移せない。


「・・・舞流」
「どうしたのクル姉?」
「・・・」

寡黙な姉、九瑠璃が静かに指差す方向には沢山の人集りがある。
トキヤも釣られて其方を見、次いでその人集りが出来ている理由を悟った。

・・・そういえば此処は。

「あれっ?ねえあれって静雄さんじゃない?」
「・・・真」(本当だ)
「っおーい!しっずおさーん!!静雄さーん!!」

静雄と呼ばれた青年は訝しげに振り返る。
それによって露になった顔にトキヤは記憶の引き出しからあの時の出来事が瞬時に蘇った。



金髪の青年。バーテン服。長身痩躯。
自分は"彼女"の部屋で熱によって魘されていた時に会っている。

詳しく聞いていないが恐らく彼女にとって、この金髪の青年は、


其処まで考えた時、トキヤの心臓が嫌な音を立てた。
どくり、どくり。


嫌だ。気持ち悪い。
これ以上考えたら何かが爆発しそうだ。
自分の中で汚くて醜いものが溢れ出てしまいそう、で、



「ひっさしぶりー静雄さん!」
「久」(お久しぶりです)


遠くであの双子の声が聞こえる。
トキヤは自分の心臓が未だ尚嫌な音を立てているのを敢えて黙殺し、足を其方に進めた。


どちらにしても自分は彼に担がれて彼女―――栞の部屋にて看病されたのだからお礼を言わないといけない。
熱で倒れてしまい、気が付いた時には彼に礼の一つも言えなかったのだからそれは尚更だ。


「ねえねえ静雄さん!幽さん何処にいるのか知らない?
今日は池袋でロケをやっているんだけどなかなか会えなくて・・・」

其処まで思考すると舞流の声がよりクリアに聞こえたところでトキヤの思考と足が止まる。

よくよく見ると金髪の彼は人集りの中心にいる"彼女"を双子から見えないように自分を使って隠しているのが分かった。

・・・考える事はもしかしなくても一緒なのでしょうか。


「ていうか!幽さん紹介して!!」
「!?」
「・・・ふん。
お前らの兄貴が、笑いながらダンプに突っ込んでいったら紹介しなくもない」
「!?」
「むう・・・」

金髪の彼がそう抑揚なく言い放った台詞にトキヤはぎょっと目を剥く。
とてもそんな過激な発言を言うとは思えない容貌をしている為、余計に驚いた。

「イザ兄で良ければ差し上げまーす!」
「いらねェよ。
つーか、俺もあいつのスケジュールを押さえる事は出来ねーって前にも言っただろ。
ただでさえ忙しいっていうのに最近更に拍車がかかっているらしいからな」
「!」
「えーっ!」

不満の声を上げる舞流、驚くトキヤ、携帯から視線を外さない九瑠璃。
三者三様の反応を他所に静雄はその場から離れようとした瞬間。

「・・・あ?」
「っ」

トキヤと静雄の視線が一瞬交差した。


「・・・お前は、」
「っあ、の、先日はお世話にな、」
「・・・お前、あいつに何もしてないだろうな」
「っ」

ひ、と悲鳴をあげなかっただけ誰か褒めて欲しい。

トキヤは思わず漏れそうになった声を押し殺し、眼前の彼を見る。
顔が整っている分迫力があり、下手な事を言えば殺気で押し潰されてしまいそうだ。

「あいつは俺にあの夜について何も無かったと言っていた。
あいつがそう言った以上、俺はそれを信じるが・・・もしあいつがお前を庇って嘘を言ってたら。本当は傷付いているのにそれを押し殺していたら。
俺は、てめえを力の限りぶん殴る」

どうしようもない兄貴なのに。
ずっと見限らずに、怖がらずに妹として傍にいてくれた。

栞は優しいからもしかしたら俺が暴力を振るったと聞いたら顔を歪めてしまうかもしれないけれど、


「それが俺の覚悟だ」


それは、門田達から見れば麗しき兄妹愛として映っただろうがトキヤにとってそれは男女の愛としか聞こえなかったのは言わずもがな。

静雄も栞も決定的に言葉足らずだった事もあり、トキヤの中で凄まじい誤解を招く結果となったのだが、彼ら兄妹はそれを知らない。

  兄妹愛と男女愛

途中で双子がログアウト。
多分主人公探しに夢中になっててトキヤと静雄の会話を聞いてない裏設定。

20150323