花雪シンフォニア | ナノ

一ノ瀬トキヤ、今年で十七歳。
彼は今までの人生において双子というものをあまり見た事が無い。

今年に出会い、且つ同じクラスになった来栖翔は双子らしく、それなりに彼らの話を聞いてはいたものの。
実際に出会った彼らの印象としては「ああ確かに似ているな」とそう評したのだが、彼らを上回る双子が現れるとはこの時のトキヤは露にも思わなかった。





―――昼、池袋某所。

トキヤはHAYATOの仕事帰りに立ち寄った店を出ると、其処には変に悪目立ちをしている一角に視線を寄せた。


・・・・・・何でしょうあれは。


明らかに柄の悪そうな男達が数人。
しかも何かを探しているようにも見える。

トキヤは自分が芸能人である事も踏まえて、早々に立ち去ろうと踵を返した結果、誰かとぶつかってしまった。


どんっ


「っ・・・」
「何処に目をつけてんだ、あ?兄ちゃん」
「・・・・・・」

メガネと帽子で顔を隠している為、一見すると分からないがこの時のトキヤは確かに顔が青褪めたのを自覚した。


「聞いてんのか?」
「っ」

トキヤは焦った。
あまり回らない思考の中、トキヤはどう事態を収拾しようか考えるもまともな案は浮かばなかった。
何せ、向こうは自分の持つ常識とは違う。
勿論向こうが喧嘩を吹っ掛けてきたら応戦するのも一つの手だが、今の自分は芸能人。
問題を起こすわけにはいかない。


「すみま、」
「おい、どうしたよ?」
「ぶつかったんだよ、この兄ちゃんに」
「あー?」

明らかにぶつかった相手の仲間が数人トキヤの近くに寄ってきたのを見て、トキヤはそろそろ本格的に危機を察知した。

・・・逃げよう。面倒事はごめんだ。

密かにそう決心し、足に力を入れた瞬間。

またもや背後から何かがぶつかる音が聞こえた。


「きゃ、」
「え、」
「クル姉、大丈夫!?」

トキヤが振り返ると伊達眼鏡のレンズ越しに見えたのは非常に顔立ちが整った少女二人。
片方は眼鏡、三つ編みの少女。
もう片方は短い髪、何処か暗い印象を受ける少女。

―――正直、眼鏡と髪型を除けば顔が全く同じ造形の少女達にトキヤは一瞬凍りつく。
つい先程まで走って逃げようと思っていた事が吹っ飛ぶ位には。

・・・双子?


「クル姉、すぐに終わるから動かないでね!」
「・・・了」
「あ、其処のお兄さんも動かないで、ね、っと―――!」

どごっと普通の蹴りにしては鈍く重い音が池袋の一角に木霊する。
男が少女の攻撃に吹っ飛んだのを見てトキヤの口角が引き攣るもそれはマスクによって隠れており誰も気付かない。

三つ編みの少女が履いている靴は爪先に鉄板が入っている。
いわば安全靴というものであるが、その名前とは裏腹にチンピラにとっては危険な凶器以外の何物でもない。

「ぐあっ・・・」

一瞬ふらついた後に男は足を縺れさせて転倒。
その際またもや鈍い音がしたがトキヤは最後までそれを見届ける事は出来なかった。

早乙女学園の授業にて習った護身術を駆使し、なぎ倒す。
まさかそれを披露する事になろうとは、と思いつつ正当防衛もそこそこにトキヤは条件反射も交えて相手取る。

(とりあえず日向さんと聖川さんに感謝、ですね!)

トキヤは寮に帰ったら真っ先に担任と真斗に感謝の言葉を伝えようと心に決めつつ、また一人気絶させる。


それを何回か繰り返した後、トキヤと初対面の双子はその場から逃げ出したのだった。



  ♂♀




「すっごいねお兄さん!
お兄さんも何か格闘技を習っているのかな!?」
ありがとう・・・ございました・・・」

三人が辿り着いたのは池袋のとある公園だった。
其処で初めてトキヤは改めて双子の顔をまじまじと見る。

・・・随分対照的な双子だ。

「格闘技というよりは護身術ですね。
それも授業の枠内で習っただけです・・・貴女こそ素晴らしい腕前でしたよ。
先程は巻き込んでしまってすみません。ええと、」

名前を呼ぼうとしたトキヤだったが、生憎彼は双子の名前を知らない為一瞬口篭る。

するとそれに気付いたのか、はきはきと話す眼鏡の少女、もとい折原舞流はトキヤに向かって極上の笑顔を浮かべた。

「此処で会ったのも何かの縁って事で!」
「折原・・・九瑠璃です」
「私、折原舞流!クル姉の双子の妹です!
好きな本は百科事典と漫画とエロ本です!」
「ああこれはご丁寧に・・・私は、・・・・・・は?」

一瞬流しそうになった単語にトキヤは目を剥いた。
ウケ狙いか何かかと思ったが舞流と名乗った少女による怒涛の追撃が更にトキヤを襲った。

「恋愛も性欲も基本的に両刀です!
でも女のベッドポジションは埋まってるから諦めて!
私、女は羽島幽さんが相手だって決めてるから!
男の人だったら何人でも付き合えるけどね!アハハ!!」
「・・・・・・羽島さんって女優の、」
「そだよ?それがどうかした?」

当たり前のように聞き返す舞流にトキヤは半ば茫然とした。


羽島幽。
確かに溜息が出る程に容姿端麗な女性の上、今の芸能界において多数存在する芸能人の誰ともキャラが被っていない為、より数多くのファンを獲得しているのは知っていた。
だけどまさか異性だけではなく同性をも虜にしているとは思わなかった。

しかも性的な意味で。
そして自分よりも年下であろう少女達に、だ。

羽島幽は自分に無頓着である分、いつか取り返しのつかない事態に巻き込まれそうな気がしてならないのだが、それは絶対に気のせいではないだろう。


表面上は変わらないもののトキヤの脳内はおかしな方向へと向かい始める。


・・・それはあまりにも頭のおかしい事態にトキヤは混乱し、最終的に思考を放棄したという事を意味する。

つまり。
早い話が容量限界であったという事は言わずもがな。


そうして彼らも、この後の騒動に巻き込まれる事になる。

  理解不能、容量限界、限界突破

いつか双子を出そうと思って此処に出してみました。
双子→主人公の気持ちを知るトキヤ。書いてて楽しかったです!
そしてトキヤに真斗が護身術を教えられたのはひとえに例の幼馴染による賜物(笑
多分原作も出来るんだろうけど、当サイトの真斗はそれ以上という設定。

20150204