花雪シンフォニア | ナノ

突然だが何をやらせても才能を発揮させる羽島幽には弱点がないと思われている。
実際彼女が何処まで万能なのか、テレビで実験した結果が以下の通り。

スポーツ全般、釣り、ビリヤード、ダーツ、乗馬、資金運用、絵画、書道、日曜大工、テーブルマジック、合気道、セスナ操縦、華道エトセトラ、エトセトラ。
全てその道のプロを圧倒させる。
まさに黒歴史編纂室長という名を欲しいままにしている彼女ならではの功績である。

そんな彼女にも苦手なものはちゃんと存在する。
内心は小心者なので突発的なアクシデントには弱い上、表情には出さないものの押しには弱いという弱点もあるが『苦手なもの』というと少し違う。

羽島幽の数少ない苦手な"もの"。
それは自身の専属スタッフの一人、スタイリストの白波瀬椿その人である。


「きゃああああ幽ちゃん久しぶりね!
髪も大分伸びてきて・・・このままどんどん伸ばして初めて会った時と同じ位にして頂戴ね、お姉さんその時を楽しみにしてるから!」
「こんにちは椿さん、・・・僕と貴女が最後に会ったのは昨日だと記憶しているのですが」
「私にとって十七時間前は随分昔の出来事よ!!勿論女性限定だけどね!」
「・・・・・・つ、椿さん」
「あらルリちゃんもいたのね!どうお姉さんと今日お茶しない?」
「え、えと、」
「椿さん自重して下さい」
「幽ちゃんが冷たい!」

よよよ、と泣き崩れるフリをする椿を冷めた視線で幽は見る様をルリは冷や汗を流しながら見ていた。

「それにしてもあンの社長、何で私に黙って幽ちゃんの綺麗な綺麗な黒髪をばっさり切っても良いなんて許可を出したのかしら!
幽ちゃんに似合うのはロングよ!勿論ショートもボブもセミロングも似合うけどロングが一番似合うの!流れるような緑の黒髪から小さく覗く色白の耳が何とも言えない艶めかしさをd」
「椿さんそれ以上は色々とアウトです!」

ルリはこのまま続くマシンガントークを半ば強制的にシャットアウトした。
話の渦中にある幽は勿論内心ドン引きしていた。

いつか自分は食われるんじゃないだろうか。
ストライクゾーンが広大な女性好き(自身も女性なのに)
スタイリストとしての腕が確かなだけ落差は大きく、容姿端麗なだけに残念さが更に増す。
それがこの白波瀬椿という存在である。

「・・・椿さん、僕に何か用事があったんじゃないですか」
「え?ああ、そうそう!
社長が呼んでいたのをすっかり忘れていたわー」
「・・・・・・それは忘れてはいけない事ではないでしょうか」
「細かい事は気にしないで良いのよルリちゃん!
それに社長が時間にルーズなのは知ってるでしょ?」
「それは・・・」
「・・・ちなみに社長が指定した時間は何時なんですか?」

淡々とした表情は微動だにしない。
幽はガラスのような双眸で時計を見ながら尋ねる。

「うん?・・・えーと・・・後十分後かな!」
『・・・・・・・・・』

満面の笑顔に数瞬沈黙する幽とルリ。
台詞を咀嚼し、意味を理解してから一瞬の後、幽は無言で部屋を去ると同時にルリの悲鳴にも似た叫び声を椿にあげたのは言うまでもない。



  ♂♀



「時代はLOVEだろEverybody!!
ラブラブなカップルをスカウトして新人アイドルとして売り出す!ビッグアイディア!
しかもそのスカウト風景を撮影すれば番組にもなるだろう!
ヘイMiss幽!どうだい!?ナイスカップルを探すラブアンドキューピットをやってみないかい!?」
「・・・・・・」

テンションが高い。
一にも二にも先に幽はそう思った。

急ぎ社長室に駆け込んだが社長もといマックス・サンドシェルトが時間に無頓着である事が幸いし、遅刻する事なく到着した幽。
約束の時間とされる十分を大幅に超えて到着したマックスに秘書が冷めた目で見つつ、会議室に案内され、開口一番に放たれたのが上記の台詞である。

周囲の無言の圧力に幽は悲鳴をあげそうになった。
会議室にいる全ての人間の視線が自身に釘付けになっており、それは誰であっても異様に怖い光景だった。
無言の圧力に耐え切れず、幽は重い口を静かに開いた。

「そういうキャラクターを演じろと言うなら、演じる事は出来ます」

そう返すのが精一杯だった幽。
ちなみにこの時、彼女が主題の不吉な噂がネットで話題にあげられていたのだがそれを彼女が知る事は無かった。

  それは終焉に続く道

というわけで最終章開始。
ベースは勿論アニメ25話。
一気に書きたいけど多分時間がそれを許さない。

20140921