花雪シンフォニア | ナノ

嶺二は現在、同じ事務所の後輩二人を担当している。
その内の一人、一ノ瀬トキヤは少し・・・否、結構嶺二に対して冷たい。
そんな彼は事務所が掲げる恋愛禁止というシビアなルールを許された数少ない人物でもある。


今回はそんなトキヤのあるシーンを嶺二が目撃した所から始まる。



  ♂♀



「ねートキヤもこっちで一緒に話そうよー!」
「結構です!」
「トッキーてば冷たい!
そんなんじゃ羽島幽ちゃんにも愛想尽かされちゃうぞ!」
「貴方には関係ありません」

絶対零度の声も何のその、嶺二は慣れた様にトキヤに絡む。
トキヤにしてみれば大概迷惑な話である。

「ほらトッキー、こっちに来て一緒に盛り上がろう!」
「だから私は・・・」

結局トキヤは音也と嶺二に度重なる誘い文句に負け、渋々付き合う。
こんなやり取りが日常と化していたのだが。

嶺二と音也はある日、別件で違う仕事が入っていたトキヤの姿を視界に捕らえた。

「あっトキヤだ」
「え・・・あ、本当だトッキーだ!」
「おーいトキ・・・!」

大きめの声でトキヤを呼ぼうとした瞬間。
トキヤと何かを話している人物に気付くと慌てて音也は口を閉ざす。

「隣りにいるのって羽島さんだよね、じゃあ今行ったら邪魔になっちゃう・・・」

音也が僅かに寂しそうな色を瞳に映す。
距離があるものの、其処に居るのは確かに同室のトキヤとその恋人の羽島幽。
話している内容は恐らく仕事だろう、二人の手元には台本の様なものを持っている。

「・・・ねえおとやん、トッキーが彼女に対してどんな風に接しているか気にならないっ?」
「・・・え?」

ニヤリ、と悪戯を思い付いたような笑顔を音也に向けた嶺二の瞳はいつもよりも輝いていたと後に音也は語る。



  ♂♀



「・・・でしたら此処はこうした方が・・・」
「成程・・・じゃあ次のシーンは・・・」
「より自然な流れにするには恐らく、」

現在二人が仕事に取り組む姿はまさに真剣そのものだ。
・・・トキヤは兎も角羽島幽はいつも通りの無表情なのでよく分からないが、仕事の話をしているという事は面白半分という事は無いだろう。
何の雑誌だったかは忘れたが『仕事を選ばない女優』ランキング上位にランクインしていた筈だし。

「・・・こんな感じで良いでしょう」
「そうだね。
有難うトキヤ君」
「いえ。
最近仕事以外であまり会えていませんが身体は大丈夫ですか?
無理はしないよう体調管理はして下さいね、急に気候も変わってきましたし・・・」
「大丈夫。
トキヤ君も気を付けてね」
「勿論です」


『・・・・・・・・・・・・』


自分達では滅多にお目にかかれないような微笑を浮かべるトキヤにいつもの無表情を僅かに崩して同じく微笑を浮かべる羽島幽。
そんな二人を目撃してしまった嶺二と音也は自分達との接し方に対する雲泥の差に何とも言いようの無い感情に襲われる。

その日の夜、トキヤが部屋に帰ると嶺二に物凄い勢いで突っ込まれたのだがトキヤはあっさりといつもの様に冷たくあしらうのだった。

+おまけ+

「ちょっとトッキー!
トッキーてばぼく達と幽ちゃんに対する接し方が違いすぎない!?」
「・・・・・・何気持ち悪いこと言ってるんですか」
「トッキーはぼく達に対する愛情が足りないと思う!」(ガン!)
「・・・れ、れいちゃん・・・」
「机に拳を叩き付けないで下さい。
そしてあらぬ誤解を招きそうなのでそういう発言は止めて下さい」


二人の関係が世間公認なのかは未定。
でも多分公認だろうな。
何が書きたかったって最後の会話(笑
トキヤの優先順位が主人公>>>>(越えられない壁)>>>>音也、嶺二だったら良いよ。

20121003