花雪シンフォニア | ナノ

栞の爆弾発言から数日後。
トキヤはようやくその意味を知った。


「あー全員いるか?
よし、じゃあ一回しか話さねえからちゃんと聞いとけよ。
お前らSクラスの中から三人、この冊子に書いてある番組に出て貰いたい」
「どんな内容ですか日向先生!」
「今から言うから静かにしろ来栖」

早乙女学園、Sクラス。
トキヤはHAYATOの仕事が無い為、三日ぶりに登校を果たしていた。
日向が教室に入り教卓の前に立ったと同時に放たれた先程の台詞。
クラスの数名が訝しげに眉を顰めたが、日向は構わずに話を進めた。

「内容はあのアイドル、HAYATOと人気モデル兼女優、羽島幽と一緒にこの学園についてレポーターをするっていう話が出ていてな。
今からその選抜を行おうと思う」
「・・・!?」

日向の台詞にトキヤは文字通り目を剥いた。

(へ、平和島さんが言っていたのはこの事なのでしょうか、というか聞いてないんですけど、いえ彼女と一緒に仕事が出来るのは嬉しいですが正直HAYATOで会うのは気が進まないというか)

HAYATOの正体であるトキヤは内心の葛藤とも言うべき感情と戦っていた。
表情に出ないように必死に無表情を貫こうとするが、上手く出来ているか自信が無い。


そんなトキヤを他所に前から配られた企画書に今度こそトキヤは遠い目をした。
企画書には『あのHAYATOとその弟でアイドルを目指す一ノ瀬トキヤの同時レポート!』と書いてある。
・・・還りたい。


「タイトルに書いてある通り三人の内一人は一ノ瀬となっているが・・・やっぱ身内がいるとやりにくいだろうし拒否しても良いぞ?」
「・・・いえせっかく頂いた機会ですしやります、やらせて下さい」

トキヤは何処か泣きそうな、以前彼女が言っていた迷子のような表情を浮かべながらはっきりとそう口にしたのだった。



  ♂♀



「・・・なーんかトキヤのやつ、変じゃねーか?」
「おチビちゃんもそう思うかい?」
「ああ、最近のトキヤって余裕が無い雰囲気だったけど昨日とか一昨日は憑き物が落ちたみたいな感じだった」
「それが逆戻りしたかのように今のイッチーは暗い表情だ」

レンと翔は口に出さずとも内心は同じだった。
一体何があったのか。
双子の兄、HAYATOとの仕事がそんなに嫌なのか。
この芸能界において特に新人は仕事を選べる筈がないのは重々承知だ。
だがあのトキヤを其処まで落ち込ませるのは一体何なのか。

トキヤはあまり自身の事について話さないし触れて欲しくないようだったからレン達もあまり触れないようにしてきた。
だがその事が災いし、彼が何に悩んでいるのか全く想像出来ないのが現状である。
本人は十中八九否定するだろうが友人としては放っておけないというのが素直な気持ちだ。
トキヤを除く残り二人のレポーターとして選ばれたレンと翔は口を開く事無くただ一度だけ頭を縦に振る。

その目はいつになく真剣だったのだがトキヤはそれを知る事はなく。

  彼の葛藤    

またもや主人公不在のターン。
そんな馬鹿な。
ネタとしてはrepeat五月イベント?でしたがズレは気にしないで頂けると有難いです。

20140105