花雪シンフォニア | ナノ

トキヤが現状把握しようと上半身を起こそうとした次の瞬間、全身を覆う倦怠感が覆っている事に気付いた。


「・・・っ・・・!」


呻き声をあげる程では無いが何故今までこの感覚に気付かなかったのだろうか。
トキヤが僅かに歪んだ表情を浮かべると、それを察した新羅が言葉を紡ぐ。


「あ、まだ無理に動かない方が良いよ。
何せ今の君の身体は39℃もあるんだからね」


淡々と告げる新羅の声にトキヤは静かに息を整える。


(・・・此処が病院、ではないのは分かりましたが・・・)


見覚えが全く無い。
この医者らしき男の家だろうか。
というより、今は自分の立場を理解する事が先決だろう。


「・・・」
「大丈夫?頭痛倦怠感以外に吐き気とかは無い?」
「・・・ええ・・・」


頷いて見せると白衣の男はほっと安堵の息を吐いた。
・・・どうやら彼は本当に医者のようだ。


「あの・・・此処は、何処・・・ですか・・・?」


トキヤは熱によってとても弱々しい、且つ枯れた声を出す。
そんな声にトキヤは本当に自分は風邪をひいたのだ、と今更ながらに自覚した。
一方、トキヤの前にいる男―――岸谷新羅はあれ、と首を傾げた。


「セルティがよく君をテレビで見ていたし僕も知っていたけど、それが"本来"の君?」
「・・・・・・っ!!」


絶句。
熱によって思考が完全に回っていなかったらしい、いつもなら絶対にしないであろう失態にトキヤは愕然とした。


(しまった―――!!)


何かを言わなければならない筈なのに何も出てこない。
トキヤが完全に狼狽えた表情を表に出した瞬間。
突如、新たなる声が部屋に響かせた。


「・・・オイ新羅。
俺達がいる事、覚えてるよな?」
「・・・・・・あ゛」
『・・・・・・・』


ばきっと何かが砕ける音がした、とトキヤとセルティが思った次の瞬間、新羅が慌てた声を出した。


「うっ嘘嘘だから静雄、怒らないでよ!
ていうか俺がセルティを忘れる訳ないじゃないか、誤解しないでねセルティ!!
僕は静雄を忘れても君を忘れるなんて事しな、―――ッッ!!!!」


トキヤが茫然とする中、突然の乱入者は無言ではあるものの青筋を浮かべながら大股で歩き出し、すぐに白衣の男に隣りに立つ。
それと同時に乱入者、もとい金髪の男は白衣の男に対しデコピンを放った。
可愛らしい攻撃の筈なのに、普通のデコピンでは有り得ないドゴンッという不吉な音を奏でられ、白衣の男は声にならない悲鳴を上げつつゴロゴロと床をのたうち回るという奇妙な光景が生まれる事になった。


「・・・ただのデコピンだぞ?
リアクションがオーバー過ぎるだろ」
『・・・否、今のは結構痛かったと思うぞ』
「・・・そうか?」


金髪の男が呆れた様にそう呟いたが、それに対し的確な突っ込みを入れたのは黄色の猫耳のヘルメットが特徴の人物。
片手にPDAを持って何かを伝えているようだ。
・・・というより。


「・・・っ!
首なしライダ、ゲホゲホッッ!!」
「っオイ大丈夫か!?」
(!)


いつぞやにテレビで見た姿にトキヤは思わず叫んだが、全て言い切る前に咳き込んだ。
どうやら自分が思っているよりも容態は良くないらしい。
そう自覚すると更に熱が上がったような気がする。
高熱によってかなり意識が怪しくなってきたトキヤに激しい頭痛が襲う。
それによりフラリ、と上半身が傾く。

身体が、熱い。


最早意識を保つのも難しく、視界がまたボヤけてくる。
自分の身体なのに、思う通りに動かないのが酷くもどかしい。


トキヤの意識はまた此処でプツンと途切れたのだった。

  闇医者とバーテン男と都市伝説とアイドルと

・・・あ、あれ、主人公が不在、だと・・・!?(戦慄
しかもまだ主人公とトキヤが会わない・・・何処の先延ばし漫画だよ!って思われても仕方ないよこれじゃあorz
・・・スミマセン。

20130201