花雪シンフォニア | ナノ

羽島幽こと平和島栞が"彼"を見付けたのは果たして偶然だったのか、それとも必然だったのか。

誰が意図したのか、策略を張り巡らせたのかは分からない。

それを知るのはまさしく、神様しかいないのだから。



  ♂♀



闇の中。


何故かは分からないが自分は今夢の中にいるのだと唐突に理解した。
確か自分はアイドル・HAYATOの仕事を終え、あたかも自宅に帰るふりをしてマネージャーの目を盗み、現在通っているアイドル・作曲家養成専門学校の早乙女学園の寮に帰ろうとした筈だ。
だが何故―――今自分は夢の中にいるのだろうか。


・・・自分の部屋に戻った記憶もなければ、同室相手の騒がしい声すら聞いた記憶もない。
というより寮に戻った記憶すらないのだが。



―――一体どういう事なのか。

ふと自分の記憶が曖昧であるという事に思い至り、急いで覚醒しようと焦りを見せるが此処で漸く自分の身体が思うように動かない事に気付く。



「驚いたねえ、まさか急患が彼とは」


突然聞こえた誰かの声。
全く聞き覚えのない、男性の声だ。


―――現実世界の自分の身体はどうなって・・・!?


「君と彼が知り合いだったなんて思わなかったよ。
栞ちゃん、芸能界に入って結構経つけどいつ会ったの?」


動け、動 け動け 動け動け、 動い、


「彼と栞ちゃんが並んだらきっと良い絵になるだろうね。
勿論セルティと僕には負け―――ぐはっ!!」


誰、   誰    否、 此処  何処
答え  応え、て  苦しい   辛い  誰、か


「・・・新羅さん、大丈夫ですか」


今まで一人の男の声しか聞こえなかったが、この時初めて女性の声を耳に捕らえた。
そう脳が判断すると同時に彼、一ノ瀬トキヤはその女性の声に瞠目した。


何故ならその声は彼が心の中で密かに、だけど酷く渇望するモノと同じだったから。



  ♂♀



そして―――
彼の瞼が開き、紫紺の双眸が覗く。


「痛たた・・・うん大丈夫だから気にしないで栞ちゃん。
それより酷いよセルティ、僕は本気だよ!」
『五月蝿い!!』
「・・・お前ら場所考えて行動しろよ」
「静雄冷たい!
・・・って、あ、目が覚めたみたいだね。
まぁ幸いただの風邪だし、暫く安静にしていたら大丈夫だよ」
「・・・有難う御座いました」
「なに、君(静雄の妹)の頼みじゃ断れないよ。
後で火星まで殴り飛ばされるのは御免だからね―――すみません冗談ですのでその拳はお収め下さい」


・・・。
まだ意識ははっきりしていない。

覚束無い視界の中で乳白色の天井が広がっている事は理解出来る。
周囲から会話が聞こえるがまだ何処か夢の中の光景に感じる。

そう思いながらも徐々にトキヤの意識が鮮明になってくる。
そんな中、聞こえてくるのは感情の無い声と皮肉めいた笑い声、そして何処か腹立たしそうな低い声だった。


「・・・兄さん」
「・・・あー分かってるよ」
(兄妹って分かっていても傍から見ると美女と野獣みたいだな・・・)
「(助かった・・・)栞ちゃん喉が渇いたからお水貰って良いかな?」
「持ってきます」
「ああ、有難う。
あ、彼の分も持ってきて貰えるかな」


そう言いながら自分の顔を覗き込んでくる男の顔が見える。
眼鏡をかけたインテリ風の若い男性だ。
白衣を身に纏っている所を見ると医者らしい。
だが彼の背後に見える景色は病院のものとは到底思えない。
壁一面を覆う本棚や近代的な高級レストランの中に見られる様な観葉植物。
熱帯魚の水槽が見え、コポコポという空気ポンプの音が鳴り響いていたかと思うと部屋の何処かから猫の鳴き声が聞こえ、妙な高級感と生活感が同時に醸し出していた。


―――此処、は。

洒落た雰囲気の部屋に見覚えはない。


一体此処は何処なのか。

トキヤは漠然とした不安を感じ、より意識をはっきりさせようと霞む目を瞬かせるのだった。

  紫紺の覚醒    

やっと彼の名前を出せました!
今回、後半部分殆ど原作の引用で申し訳無いです・・・orz

20130114