花雪シンフォニア | ナノ

こんにちは。またはこんばんは。
平和島栞です。一応生きています。
あの兄を持つと此処まで命の危険に晒されるのだという事実によく本家の幽君は生き残れたなと思う。否、ホントに。

はてさて幽君に成り代わってしまった私だが、幽君との大きな違いを挙げていこう。
此処大事だからね、テストに出るよ!

・・・・・・一人でボケるのは辛いので止めておこう。無視して下さい。

まず一つ目。
幽君は男だが私は女である。間違っても男ではない。
昔、母から「栞が男の子だったら『幽』って名前をつけようと思っていたのよねー」と言われたことを思い出す。
・・・話がそれた。

二つ目、私はまだ中学生なので芸能人ではない。ただの一般人だ。
他にも色々あるが、幽君との相違点といったら主にこの二つだろう。

そして現在。
私の前に兄が佇んでいる。・・・何かしたっけ。

「栞、俺はこれからコンビニに行くんだけどよ」
「・・・うん」
「一緒に来るか?」

・・・・・・兄さんに言われた言葉に私は思わず凍りついた。
多分今の私の顔は恐らくぎょっと目を見開いていて、見るに耐えない顔に違いない(勿論周囲から見れば無表情である)
しかし、いつまでも無言でいては兄さんは怒るかもしれない。
なのでさっさと返事をすべきだろう。

「・・・うん、行く」

・・・・・・何で頷いてるんだ自分!何の用事もないくせに!私のバカ!
ていうか普通、「何か欲しいものがあったらついでに買ってくる」的な言葉じゃないの!?



  ♂♀



結局、兄と共に出た私は何を買おうか、只管悩んでいた。
アイス・・・スナック菓子?否、他に何か・・・。

そんな事をつらつらと考えていたらいつの間にかコンビニに着いてた。
・・・本当にいつの間に。

「何してんだ栞?置いていくぞ?」
「待って兄さん」

そうだったそうだった、思わず足を止めていたとは不覚。
足を再び私は動かし、兄さんの下へと移動する。―――移動しようとした。

次の瞬間私の耳が捉えたのは兄とは違う、男の声だった。

「―――あれ、シズちゃん?」
「いぃぃぃざぁぁぁやぁぁぁ!!!」

私の頭の中でボクシングの試合開始に使われるゴング音が一つ鳴った気がした。
それと同時に兄とその兄を『シズちゃん』と呼んだ男――折原臨也を中心に周囲が戦場と化したのは言うまでもなく。



  ♂♀



・・・あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。
十分だったのかもしれないし、二十分だったのかもしれない。
兎に角、どこぞのバトルマンガ宜しく言わんばかりに闘りあっている。
・・・いい加減に終わってくれないかな、無理だろうけど。
だって戦争コンビって言われているくらいだし。


・・・なんて思っている私は多分妹失格なのだろうな。ゴメンねシズ兄さん。
きっと幽君ならこんな事を思わない、素晴らしい弟だっただろうに。

「・・・兄さん」

ポツリと呟いた言葉は当然兄さんの元には届かない。
現在進行形でバトっているのだから当たり前だ。
とりあえず当初の目的である買い物を済ませてから喧嘩を止めよう。
兄さんの買いたい物はさっき聞いたし問題ないが喧嘩を止められる自信が無い。
・・・・・・物凄い不安だけどね!ていうか不安しかない!

そんなことを思って私はコンビニ内へと足を進め、今度こそ入店を果たした。



  ♂♀



うぜえ。うぜえ。うぜえったらうぜえ。

折角栞と買い物をしようと思って外に出たのによりにもよってノミ蟲と出くわしてしまった。
学校だけでなく町中にまで会いたくない、声すらも聞きたくない、コイツと。

何でもいい。兎に角コイツを殺す。そう思っていたのに。


「俺も暇じゃないんだよねぇ。だから今回はそろそろ退散させてもらうよ」
「待ちやがれ臨也ぁぁあ!!」
「俺なんかより妹さんを構ってあげなよ?」
「―――!」

いつも通りのムカつく笑顔を浮かべてあのノミ蟲は去った。
いつもの俺なら後を追いかけた。
だけどあのノミ蟲の最後の言葉、"妹"の単語で体が止まり、ノミ蟲を逃してしまった。

栞。俺のたった一人の妹。
ガキの頃から無口で無表情、だけどこんな俺を兄として接してくれる、大切な妹。

「栞っ・・・!!」
「・・・どうかしたの、兄さん」

栞のことを忘れていた俺は焦って大声で栞の名前を呼ぶ。
すると、すぐに落ち着いた声音で栞は返事をしてくれた。
・・・手にはコンビニの袋を持った栞が、其処にいた。

「栞っ・・・・・・あー、その・・・」
「・・・・・・」

一切の表情がない栞だが、言いよどむ俺に少しだけ首を傾ける動作をする。
・・・お前それをやる相手を間違ってねぇか?
―――って違う。栞に謝らなくちゃいけねぇだろ。

「・・・さっきは悪かったな。お前を一人にさせちまって・・・」
「・・・気にしなくて良いよ」

俺以外のヤツだったら怒っているのか、それとも本当に気にしていないのか分からない言葉だったが栞の兄貴だからか、俺はある程度の感情を読み取ることが出来る。
今のは後者だ。

「・・・・・・そうか」
「うん。
・・・あ、兄さんの買い物も済ませておいたけど、一応確認してくれる?」
「助かる。・・・ありがとな栞」

本当に俺は駄目な兄貴だ。
妹のことを放ったらかしにしてしまう兄貴なのに、栞は見捨てない。見限らない。
家族がいてくれるっていうのは、こんなにも安心出来るのだと改めて実感した。

  兄と妹

最初の視点が主人公で次に静雄です。
とりあえず、当サイトの兄妹関係はこんな感じです。