花雪シンフォニア | ナノ

久々に翔が学園に帰ってきた日の夜。

いつもなら騒がしいの一言に尽きる音也の様子が今日に限って大人しかった。
仕事が珍しく入っていなかったトキヤはそんな同室の音也に胡乱気な視線を送る。


・・・何故今日はこんなに大人しいんでしょうか・・・。


まるで嵐の前の夜みたいだ。
もっと静かに出来ないものかと常々思っていたが実際にされると不気味さしか残らない。


そんなトキヤの思考なんて知る由も無い音也は視線をトキヤに向けず、しかし声はトキヤに向けて放った。


「ねえトキヤ・・・・・・」
「・・・何ですか」
「・・・、トキヤってHAYATOの弟なんだよね?」
「そ、うですね」


一瞬、声が震えたが音也はそれに気付いただろうか。
トキヤは今更な音也の発言に反応が遅れそうになった。
一体何を言い出すのか。

「・・・彼の事は聞かないで下さい。不愉快です」
「うん、知ってる。
じゃあさ・・・トキヤって芸能人に知り合いっているの?」
「・・・・・・・・・・・・は?」


今度こそトキヤは呆れた声を出す。
だが音也は真剣な目で自分を見ていて。


「音也?」
「・・・・・・・・・羽島幽」
「!」
「トキヤはアイドルHAYATOの双子の弟なんでしょ?
だから自然と他の芸能人とも交流が少なからずあると思う。
でも・・・」


音也の脳裏に過ぎったのは数日前の深夜。
2時という中途半端な時間に目覚めてしまった自分の耳に届いた声。
そしてその言葉。


『・・・・・・っ―――』


その時の声が、苦悶の表情が今も尚、忘れずにいて。


「トキヤは・・・羽島幽と知り合いなんでしょ?」
「・・・・・・・・・何、故」


通常の自分なら、トキヤの口から聞いた時点で興奮していた。
でも今回は違う。
だってあんなに魘された声で苦しそうな表情で名前を言っていたのだから。


あの芸能人とトキヤの間に何があったのかなんて知らない。
でも何かあったのは俺でも分かる。


「ねえ、トキヤ」


音也の視線の先にいるトキヤはただただ紺碧色の双眸をこれ以上無い位開いていて。
茫然とした頭で音也を納得させられる言葉が出てこない程、トキヤは冷静さを失っていたのだった。

  彼しか知らない真実    

トキヤが久々に出た・・・!
音也は殆ど偶然にトキヤが主人公の名前を寝言で言っているのを聞いていたというお話。
何故トキヤが苦しそうだったのかというのもこれから明かしていく予定。
そして6章もそろそろラストです。

20121206