花雪シンフォニア | ナノ

その後、春歌達はサービスエリアを後にして着いた先は春歌の家の前。
足に負担をかけないように栞は春歌の手を引いて車から降ろすと、徐に口を開いた。


「・・・七海さん、此処で良いですか?」
「はいっ有難う御座いました!
今日は貴重な経験が出来ましたし、本当に何とお礼を言って良いやら・・・」
「いえ、今日の事は本を正せば僕の責任です。
急にお時間をとらせて貰って・・・」
「だ、大丈夫です!
それに学園入学前に現場を知れてとても勉強になりました!
貴重な経験を有難う御座いました・・・!」



興奮した様に言葉を募らせ、ガバッと勢い良く頭を下げた春歌に栞は密かに胸を撫で下ろす。


日本人の気質柄、非難が出来る人間は少ないと分かっているが、彼女の場合は本心だろう。


「・・・そう言って貰えると助かります。
受験、頑張って下さい」


労わりの言葉に春歌はゆっくりと頭を上げて彼女の顔を見ると見事に表情と台詞が合っていなかった。
それでも春歌は気付いた。

先程の言葉には感情が僅かに篭っていた事に。


彼女は決して無感情ではない。
感情を表に出しにくい人なのだと春歌は一日しか会っていないが、そう思っていた。

だから、春歌はただただ微笑を浮かべる。
今日という出会いに感謝を。

怪我を負ったという事実も彼女との出会いで全て帳消しになったから。


「はい!いつか・・・今度は作曲家として羽島さんに会えるように、」


頑張ります。


そうして一日が終わる。
様々な思いが交錯しながら夜が更けるのだ。


・・・これが、彼女との出会い。

―――これが、春色の少女との邂逅だった。

  一日の終わり    

これにて第5章終了です。
文字通り、第5章は春歌との邂逅編でした。
主人公、春歌がトキヤに変化をもたらすと思っていますがその事に対する嫉妬等の感情はない模様。
はてさて此処からどう二人の関係を変えていくか。
温かい目で見て頂くと幸いです。

20120923