花雪シンフォニア | ナノ

七海さんを送る帰り道の途中、サービスエリアで休憩をとる事になった私達。
ルリさんと卯月さんは何か用があるとかで此処にはいない。

という事で現在私と七海さんの二人きりなのだが。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


沈黙。無言。無声。


何を話せば良いの・・・!?
ああ本当に私って口下手だなぁ!
芸能人ってトークも大事なのに私の場合はあまり話さなくても良いって言われたから、その言葉に甘えて普段と変わらずにしているだけであって決してそれはキャラクターなんかじゃなくて。

此処にきてそのツケがくるなんて・・・!


くっと後悔に襲われる中、栞は何とか会話をしようと思考する。
春歌が隣りで同じ様に話題を探しているとは思わずに。


「は、羽島さんは犬と猫、どちらが好きですか?」

話題を探しているといきなり振られた質問に思わず目が点になってしまった。
・・・・・・・・・。


い、いきなりその質問!?
って呆けている場合じゃない、早く返事をしないと・・・!


「・・・どちらかと言うと猫かと」
「そ、そうなんですか!」
「はい」
「・・・・・・・・・」


会話終了しちゃったよ・・・!
私の馬鹿!
分かっていたけど本当に私のコミュニケーションスキル低いなぁ・・・。


「・・・・・・」


一度思考を整理する為、栞は此処で一度隣りにいる春歌に対し一度改めて考えてみる事にした。


(あの乙女ゲームの主人公で作曲家志望の女の子、だったよね・・・。
・・・・・・あれ?)


その前に早乙女学園入学しているのだろうか?
・・・前に一ノ瀬君(仮)に会ったから多分入学前だと思うんだけど。

彼等に会う前に入学していたら洒落にならないよね・・・?



「・・・・・・・・・」


栞はふと思い至った考えに言いようの無い焦燥感に駆られた。
正体の分からない何かに囃し立てられた様な気がした。


「・・・七海さん、今年で15歳なんですよね」
「え?・・・は、はい!」
「ということは受験生ですか?」
「そう、です・・・」


・・・・・・という事は早乙女学園受験か!
良かったね一ノ瀬君(仮)!
彼女との出逢いが君に良い影響を与えてくれる事を祈ってるよ!


この場に居ない、それ所か一度しか会っていないトキヤに栞は心の中でエールを送る。
そのエールが彼に届く筈が無いのだが、敢えて栞は黙殺する。
代わりにボロが出ないように学校名を尋ねた。


「何処の学校を受けるか、聞いても?」
「・・・早乙女学園です」


やっぱり、・・・というか声のトーンが下がったような気が。
倍率200倍だって言うしやっぱり不安なんだろう。

・・・よし、此処は応援しないと女が廃るってモノだよね!


「そうなんだ。
・・・月並みな台詞で申し訳ないけど頑張ってね」
「・・・・・・え・・・?」


茫然とした声音に栞は僅かに眉間に皺を寄せて春歌を見る。
尤もその微妙な差に春歌も本人も気付かない。

栞としては言い方に失敗したのかと内心恐怖していたのだが、此処でまた二人の間で擦れ違いが起こった。
春歌の反応に焦りを感じた栞はいつもよりも多く言葉を募らせる。
それは彼女の兄から見れば目を丸しただろう光景だった。



「?
早乙女学園は倍率200倍の専門学校。
其の倍率は最難関というのは誰だって分かる。
それでも僅かな可能性に賭けて挑戦しようとしている七海さんを応援したいと思うのは当然かと思いますが」
「・・・・・・っ」


春歌の黄金の双眸がじわじわと瞠目するのを見て栞は内心絶叫した。



うわあぁぁ失敗した!?失敗したの私!?
柄じゃない事をするんじゃ無かった!
こういうのはやっぱり適材適所っていう位だし、私じゃなくてルリさんとか卯月さんとかに頼めば良かったんじゃ・・・!



内心で軽くパニックになっている栞の耳に春歌の何処か茫然とした声が届いた。


「・・・無理だ、って言われるかと思いました・・・」
「・・・・・・・・・」


・・・まぁ確かに普通、倍率200倍なんて言われたらもっと無難な所にしなよって言われるよね・・・。
でも私は知っている。識っている。
彼女の夢の始まりは、早乙女学園なのだと。


「・・・・・・他の誰でもない貴女自身が決めた選択。
其れは誰にも脅かされる事の出来ない、貴女だけのモノ。
貴女が決めた事なんだから、僕達がとやかく言える訳が無い」


うわぁああ我ながら何恥ずかしい事言ってるの!?
一ノ瀬君(仮)の時といい、私の口はどうなってるのさ!
嗚呼もう七海さんの顔見れないよ恥ずかしくて!


「羽島さん・・・!」


・・・あれ結果オーライ?


月光の如き双眸は爛々と輝いており、栞はその瞳を見た瞬間目を逸らしたくなった。


そんな目で私を見ないで・・・!


「私、は作曲家になりたいんです。
それで、ある人に私の作った曲を歌って欲しいんです・・・!」


・・・あ、何となく分かった。
多分その"ある人"ってHAYATOの事なんだろうな。
HAYATO、というか一ノ瀬君(仮)には会って話はしたけどあれ以来会ってないなぁ。
番組が重なるなんて事もないし。

まぁ、会った所で気まずいだろうな・・・お互いに。


ただただそんな事をぼんやりと考えた栞。

夢に向かって切磋琢磨し励ましあえる仲間。
純粋に羨ましいと思う。
・・・私にはそういう機会が無かったから。



栞はまるで眩しいものでも見るかのように僅かに目を細める。
その黒曜石の如き双眸で小さく拳を握る春色の少女を映した。


「・・・羽島さん、有難う御座います!
私頑張って早乙女学園に入学して―――立派な作曲家になりますね!」
「・・・うん応援してる」
「そして・・・差し出がましいと思いますがその時は是非、いつか私の作った歌を歌って下さい」


・・・・・・どうか、彼女の進む道が茨の道でない事を、祈るよ。


栞は思ってもいなかった突然の言葉に戸惑いを覚えつつ、小さくだけどしっかりと頷いたのだった。

  二人目のお悩み相談    

前回のお話で主人公sideです。
お相手のトキヤが(姓だけ)登場しました。
本編で再会するのはもう少し後です(汗
トキヤファンの方申し訳ないです・・・!orz

20120920