花雪シンフォニア | ナノ

「幽さん!良かった無事に合流出来て・・・!」
「―――ルリさん」


車から出てきたルリさんの元々血色が良いとは言えない顔が更に白くなっていた。
・・・何か申し訳ない。心配掛けてすみません。


「あの幽さん、その人が先程の電話で話した―――」
「悪いけど話は後!
幽に後その娘(こ)も!早く車に乗って!」
「・・・分かりました」


卯月さんの言葉に返事を返した後、私は七海さんの方へと視線をズラす。
其処にはやはりというか困惑した七海さんの姿があった。


・・・そういえば何も話していなかったよね。
そりゃ困惑もするか。
自己完結するのは私の悪い癖だ。


「七海さん、乗って下さい」
「え、ええ!?わたしも乗るんですか!?」
「はい。さ、早く」


・・・あ、手当てするって言うの忘れてた。
言った傍から何やってるんだろ私・・・。


栞はすっと手を伸ばし、足に負担をかけないように配慮しながら未だに渋る春歌を半ば強引に車に乗せる。



其の姿は心中で自己嫌悪に浸っている等、誰も想像なんて出来なかった。



  ♂♀



「あ、あの此れは一体・・・」


ビクビクとまるで小動物の様に反応する春歌に栞は淡々と見つめる。
口を開く様子を見せない栞にどうやら話す気は無いと思ったルリは苦笑を浮かべつつ代わりに説明をする事にした。


尤も其れはルリの勘違いであり、実はどう話すべきか葛藤していただけなのだが、やはり誰も気付かない。



「・・・私は聖辺ルリと申します。
羽島幽さんの専属スタッフの一人です・・・えっと」
「あ、す、すみませんわたしは七海春歌です!」
「・・・で、は七海さん、運転して下さっているのは私と同じく羽島さんの専属スタッフでマネージャーの卯月永遠さんです」


・・・何かいつの間にか自己紹介に発展しているし。
あれ私置いてけぼり?
いやいや卯月さんも「宜しくねー」って。

私も話に参加させて下さい。否、寧ろ此れは新手の苛めか何かでしょうか?


・・・・・・・・あ、そういえば。


「・・・七海さん、足を出して下さい」
「え?」
「足の怪我を手当てさせて頂きます。
・・・ルリさん、救急箱はありますか?」
「勿論です」


ルリさんがぱっと取り出したのは一般家庭では見慣れた救急箱が。


(・・・言ってなんだけどあるんだ・・・)
「す、すみませんわざわざ用意して下さったんですか?」
「え?・・・いえこれは元々常備してあったものですから・・・お気になさらないで下さい」
「常備、ですか?」
「・・・・・・?」


何で?
え、私知らないよそんなの。

卯月さんの方を盗み見るとどうやら彼女も知っていたらしい。
・・・何となく嫌な予感がしたのは気の所為であってほしいな。


『幽(さん)が無茶な事をして怪我をした時用(です)』
「・・・・・・・・・」
「忘れたとは言わせませんよ幽さん。
ドッキリ企画で小指を躊躇無く切り飛ばそうとした時の事を!!」
「・・・・・・・・・うん」


すみません、忘れていました。
って言ったらどうなるかな。反応が気になるけど言ったらまた怒られそうだ。

ああいや、忘れてないよ。
あの件は今も私の中ではトラウマです、本当に。
というよりあの時は私もパニック状態で、今思えば自分でも凄い事をやらかす寸前だった。
兎に角その節は大変ご迷惑をお掛けしました!


内心ではマントルまで頭を押し付ける勢いで平謝りする栞。

ルリだけでなく運転中の永遠にまで突っ込まれ、流石にぐうの音も出ない。


「・・・・・・うん、ゴメン。
七海さんも置いてけぼりにさせてしまってすみません」
「・・・えっ?え、いえ、そんな、」
「わっ、すみません、すぐに手当てを―――!」
「良いよルリさん。僕がするから」
『え、』


栞の言葉にルリと春歌は凍りついた。
天下の有名女優に手当てを受けられるなんてそうそう無い経験だろう。

・・・どうしよう一生分の幸運を使った気分。

春歌は思わずそう思ったのも無理はなかった。
しかし栞は気付かない。

「・・・元々僕が巻き込んだんだ。
なら僕が手当てをするのが筋だと思う」


その後。
春歌は有名女優、羽島幽手ずから手当てをして貰うのは恐れ多いと気後れし、辞退しようとしたのだが結局栞に押し切られることになった。

  ビターガールズトーク    

お待たせしました!
しかしあまり進んでいません・・・申し訳無いです(汗

20120811