花雪シンフォニア | ナノ

すっかり忘れていた人物との出会いを果たした末に栞は見事、『吸血忍者カーミラ才蔵』の撮影を終了させ、映画は無事公開された。
沢山の仕事をこなした為、疲労困憊の彼女だったがそうと感じさせないような無表情を浮かべつつ、横にいる聖辺ルリと共にある部屋に向かっていた。

「羽島さん、お疲れではありませんか」
「・・・大丈夫」
「そ、そうですか」

沈黙に耐えられなくなったのか、ルリは当たり障りの無い会話を持ちかけるが、栞の言葉少ない台詞に見事撃沈する。

撮影のときから分かっていたが、この人はとんでもない存在だ。
ルリはそう評価する。
怪物に憧れる自分にとって、羽島幽という人間は充分『怪物』と呼ぶに値する存在だ。

その羽島幽と何故メイクアップアーティストの卵である自分は今横に並んで歩いているのだろう、とルリの脳内は疑問に満ち溢れていた。



  ♂♀



二人が目指していたのはジャックランタン・ジャパンの社長室だ。
何故其処に目指しているのかというと、社長に呼び出されたからに他ならない。

しかしどうしたことか社長室に約束の時間の10分前に到着したというのに社長の姿が見えない。

「・・・あれ?」
「・・・・・・・・・」
「社長ならまだ此方に来ていませんのでどうぞお掛けになって待っていて下さい」

社長室にいた秘書に着席を進められたので、二人は顔を見合わせ秘書の言葉に甘えることにした。





「そういえば。二人とも撮影の件、お疲れ様でした」
「いえ」
「え、あ、いえ・・・」

約束の時間を越えた頃、突然の秘書の台詞に栞は簡潔に、ルリはたどたどしく返事を返した。
―――その瞬間。



バンッ!と凄まじい音と共に社長室のドアが開いた。
二人の視線がドアの方へ向くと、其処にはジャックランタン・ジャパン社長のマックスがいた。


「OKOK!時間よりも早く来るとは感心感心!
やはりジャパニーズは謙虚で尚且真面目な人間が多い!
しかもMiss幽とMissルリは特に社長である俺を立ててくれているようだ!
全く他の社員にも見習わせてやりたいな!」

白く磨かれた床に蛍光灯の光が柔らかく跳ね返り、全体的に清楚な印象を与えるオフィスビル。
そんなビルの一角に清楚という言葉には程遠い調子の声が響き渡った。

白い肌の上にオールバックの金髪を靡かせ、色の濃いサングラスに無精髭、白いスーツに鰐革の靴、高価な指輪をして口に葉巻を銜えた男。
この男が栞の所属する事務所の社長、マックス・サンドシェルトである。


(・・・相変わらず悪役として出てきそうな人だなぁ)

栞はマックスの言葉を殆ど聞き流す。

だってほら人の話は耳半分で聞け、って言うし。

「社長、彼女らは指定時間より十分早く入室していました。
そして現在、社長はその時刻より大幅にオーバーし、二十分遅刻して入室しました。
つまり合計三十分彼女らは待っていた事になります。
見習って下さい」
「・・・・・・」

秘書の怜悧冷徹な突っ込みにマックスはあらぬ方向を見て遠い目をした。
白を切るつもりらしい。

・・・・・・どうでも良いけど早く用件を言ってくれないだろうか。

「あー・・・そうだそうだった!君達を此処に呼んだのは他でもない!」
「え?」
「・・・・・・」

無理矢理な話題転換である。
もう少しマトモなやり方は無かったのだろうか。
そう思った栞だったが実は栞の無表情に加え、無言の眼差しに耐え切れなくなったマックスが通常より回らない頭を使って話題を変えたのだが当然、彼女は気付かない。

「今回、『吸血忍者カーミラ才蔵』を演じたMiss幽とそのメイクを手がけたMissルリの知名度が徐々に上がってきている!
そこで俺は考えた!
これからMiss幽は女優としても活躍する!
だからMiss幽の専属メイクアップアーティストにMissルリを雇おうと!!
あのメイクの腕は素晴らしかったし、丁度同い年位だ、気が合うだろう。
更にMissルリはまだ無所属ときた!
マネージャーにMiss永遠、スタイリストには・・・性格は難だがノープロブレム!
きっとOKしてくれるだろう!」
「私が、羽島さんの専属スタッフですか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

上から順にマックス、ルリ、栞。
栞とルリは話に微妙に着いていけず混乱する。

「Yes!
Missルリにとっても悪い話ではない筈だ!
君の師匠にも早速連絡を・・・!」
「え、えと・・・」
「・・・・・・社長、(私の為にも)少し時間をおいたらどうですか」
「彼女の言う通りです。
社長、少し彼女に対して性急かと思いますが」
「うっ・・・!」

栞だけでなく秘書にも突っ込まれたマックスは大人しく口を閉ざす。
その様子に微妙な空気になったことを感じとったルリは居心地が悪くなったのを感じたのだった。

  加速する周囲の環境 

話し方が本当に分からない・・・!
この話も難産でしたorz

20120401