「幽!幽、仕事よ!」
「・・・モデルですか?」
「それもあるけど今回はそれだけじゃないわ!」
「?」
「B級映画だけど、主演をやってみない?
『吸血忍者カーミラ才蔵』っていうタイトルなんだけど」
「・・・・・・・・・・・・」
羽島幽のマネージャー・卯月永遠の素晴らしい笑顔と共に放った言葉は栞にとって爆弾投下されたのと同じ位威力があった。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・カーミラ、才蔵・・・?
聞き覚えのある言葉に栞は内心で激しい動揺を見せる。
しかし永遠はその動揺に気付かない。
「どうする幽?これをOKしたら女優としての羽島幽、初デビューって事になるけど」
「・・・・・・デビュー、ですか」
・・・確か、そのタイトルは。
その、作品の名前は。
幽君のデビュー作品だった筈だ。
・・・・・・・・・・・・あれ?
栞の中で激しい動揺の衝撃が収まると今度はある事実に気付いた。
「・・・・・・卯月さん」
「ん?」
「今、『吸血忍者カーミラ才蔵』って言いましたよね」
「言ったわね」
「主演?」
「それも言ったわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・男ですよね?」
「そうよ?」
「・・・・・・・・・私は女ですが」
「知ってるわよ、そんなこと」
寧ろ男だーって言われたら私がどうしようって感じよあはは。
・・・あはは、じゃないと思いますが。
そんな会話がされてから数日後。
結局栞は永遠だけでなく社長を含めた周囲の人間に押され、有無を言わせない空気に負けてしまい、主演のカーミラ才蔵を演じることになってしまった。
勿論男装して、である。
♂♀
そして更に数日後。
現在、栞は羽島幽としてある楽屋にいた。
(何でこんなことに・・・)
相変わらずの無表情の下、栞は内心項垂れていた。
表情こそ波紋の無い水面の様だが、心の中は絶賛後悔の嵐である。
(あー・・・うー・・・)
「あー嬢ちゃん、ちょっと良いか?」
「(・・・うぅ・・・)・・・・・・ぇ」
ずぶずぶと落ち込んでいた栞の前に現れ、声をかけたのは一人の男だった。
先程も言ったが此処は楽屋。
一般人が入れる所ではないので、この男も芸能関係者だと栞は思い至った。
「・・・何か用ですか」
・・・この人ノックしたの?
全然気付かなかったんだけど!などと内心突っ込んだ栞だったが実際に口にすることはなかった。
一方そんな彼女の心情を知る由も無く、自分を真っ直ぐに見つめる栞に対し何故かふ、と笑う男。
いきなり笑われた栞は何かしたっけ!?と内心焦っていたがこれも又、男が気付くことは無く。
「嬢ちゃんが今度、『カーミラ才蔵』を演じるんだよな?」
「はい(まだ納得してないけどね!)」
「そのメイク、俺の弟子が担当することになったからよ、今会ってくれねぇか?」
その言葉に栞はあまり考えずに頷く。
ただ何となく、この人はメイクアップアーティストなんだな、とそう思っただけだった。
―――そして、彼女は後に気付く。
その男が誰なのか。
―――そして彼女は再度思い知る。
自分は『誰』に成り代わってしまったのか。
「入って良いぞ」
『彼』が出会う筈だった存在。
すっかり忘れていたその存在。
「は、初めまして」
メイクアップアーティスト、柘榴屋天神の弟子。
自身が怪物の末裔であることを知らず、怪物に憧れる存在。
「今回、羽島さんのメイクを担当させて頂きます、」
髪が腰まである栞と比べると大分短く見える髪。
しかし、此方も同様アジア人特有の黒髪は綺麗に手入れされているのが分かる。
その白い肌は血色が良いとは言えず、何処か物憂げな雰囲気を醸し出しており、まるで外国の絵画から抜け出てきたような美女が、栞の前にいた。
「―――聖辺ルリと申します」
"前"の世界で見たことのある名前。その姿。
―――聖辺ルリ。
これが「怪物に憧れる怪物」と、その『怪物』によって称される「人間になりたい怪物」との出会いだった。
肉体の怪物と精神の怪物との出会い
という事で、第4章は再びDRRRのターン!
今回はルリと柘榴屋天神との対面。
原作でこの二人のセリフと言うかシーンが少ないからこれで合ってるのかよく分からない・・・。
変な箇所があったら拍手で指摘して下さいorz
20120326