芸能界や芸能人というのは具体的にどういうものなのか、散々迷った結果直接会って話を聞いてみることにした。
事務所の名前は『ジャックランタン・ジャパン』
本社はアメリカにあり、今私がいる建物は、いわば日本支部といったところか。
(・・・確か、幽君ってこの事務所で働いていたんだよ、ね・・・?)
幽がどのようにして芸能界に入ったのかという情報を栞は覚えていないが、事務所の名前は覚えている。
『原作』の知識を少しだけ引き出して栞は案内された部屋で一人待機していた。
(えーと・・・確か事務所の社長は・・・)
外国人で・・・何かとってもハチャメチャで・・・あのシャイニング早乙女と似ていたような、気がしなくもない・・・?
栞は自身の記憶の曖昧さ加減に半ば呆れ、宙を見る。
(・・・もっと真面目に読んで・・・否見て?おくべきだったなぁ・・・)
しかし、ここまで来ればその後悔も意味が無い。
まさか誰もこんな事態に陥るとは思わないだろう。
(幽君って確かそんなに大きな事件に巻き込まれていなかった筈、だよね?
誰か肯定してくれないかな・・・!)
心中不安に満ちた栞の表情はやはり無表情で、いつも通り「何考えているか分からない」という印象を与えるものだった。
♂♀
それから数分後。
バタバタと大きな足音が此方に向かってきたと栞が思ったのと同時に、ドアが豪快に開く音が部屋中に響く。
ドアを開いたのは女性と男性だった。
開口一番に開いたのは女性だった。
「待たせてゴメンね!折角来てもらったのに!」
「おお、此方がアイツがスカウトしたというお嬢さんか!
成程成程、確かにアイツがベタ褒めするだけはある!」
「社長、口を閉じて静かにして下さい」
『・・・・・・』
辛辣なセリフに栞と男は思わず口を閉じた。
そうしなければならない何かを二人は感じたからである。
♂♀
その後、一時間にわたる細かな説明を聞かされ、栞は容量限界(キャパオーバー)でパンクするかと半ば本気で思った。
「どう?結構長いこと話したけど大丈夫?」
「・・・はい」
何とか。
栞は決して表情に出ていないが内心ぐったりとしていた。
何故こんなに表情筋がかたいのか、栞の中で一番の謎となっている。
虚しい・・・と栞は心の中でほろりと涙した。
「これだけ話したのにも関わらず、ノープロブレムとは!
是非うちの事務所に入ってほしいものだ、Miss栞!という訳で早速――」
「黙れって言ってんのが聞こえないんですか社長」
「・・・・・・」
男性が社長のマックス・サンドシェルトらしいがとてもそう思えない扱いを受けているように見える。
「・・・えーと何処まで話したっけ。
とりあえず最初はモデルだけでもやってみない?
貴女なら向こうもOK出すだろうし、どう?」
「・・・」
「まぁ上手く軌道に乗れば歌手とか女優業なんてのもするかもしれないけど」
ニコニコと笑う女性―――先程貰った名刺には卯月永遠と書いてあった―――に思わず栞は首を縦に振ってしまった。
(・・・あ)
このタイミングで頷くということは其れ即ち。
「本当に!?じゃあ早速契約書にサインを――!」
「Miss永遠、契約書は此処だ!」
「有難う御座います社長っ!」
・・・やっぱりー!ちょ、待って待って!
言うんだ自分、此処で言わないと私の人生が変わるっ!
「待っ」
「そうそう芸名どうする?本名でいっちゃう?」
「・・・・・・・・・羽島幽でお願いします」
やっぱり無理でした。
私の意気地無しーーっ!!
ハロー、ニュー非日常!
第2章終了です。此処で漸く芸名の名前変換が出てきた。
オリキャラの名前ですが『永遠』=『とわ』と読むので一応補足として書いておきます。
次章はお待たせしました、utprキャラの登場です。長かった・・・。
20120316