花雪シンフォニア | ナノ

どうも平和島栞です。
こんにちは、またはこんばんは。

今日はシズ兄さんとまた買い物に来ていたのだが、今はそれ所じゃ無かったりする。
まず今日の天気。
今日の天気予報は晴れと聞いていたがそれは間違いのようだ。
何しろ今の天気は晴れは晴れでも其れに加えて人が降っている。
雨ではなく人が。

通常なら有り得ない光景なのだが、この池袋に限りその常識は紙屑ほど役に立たない。
特に栞はその元凶である静雄の身内である分見慣れている。
最初は表情に出ていないが内心絶叫していた。
しかし今ではすっかり「あぁ、又か」と思うだけだ。嫌な慣れである。
だがそうでなくてはこの池袋では生きていけないし、何より栞は身内として慣れざるを得なかった。



そして現在。
目の前で繰り広げられている光景に栞はただ無表情で兄達から離れた所に佇んで静観していた。





何故人が降っているのか。
原因はひとえに栞の実兄、平和島静雄の人類を超えた暴力の所為だと言える。
ではきっかけは何だったのか。
静雄は自分から喧嘩を吹っ掛けたりはしない、普段は温厚な青年だ。
故に、喧嘩になるには必ず相手が静雄に絡んでくるときだけなのだが、その事実を知る人間は意外と少ない。
まぁ、この話は今は置いておこう。

とりあえず、今回のことも相手が沸点の低い静雄を何らかの形で機嫌を損ねてしまい、栞が避難せざるを得ない状況になったというわけである。



  ♂♀



「栞、これとあの黒のヤツなんだけどよ」
「うん」
「どっちが良」
「すみません、平和島静雄さんですよね?」
「・・・・・・・・・あ?」

兄妹水入らずの会話に突如割り込んだのは一人の男性だった。
何処かで静雄の噂を聞いたのか、好奇心と興味、そういった感情で近づいてきたと分かる笑顔を貼り付けていた。
静雄も其れに気付いたのか、自然と眉間に皺を寄せ、声もいつもより低くなる。
栞は男の其れにも兄の感情の変化にも気付き、いつでも逃げれるようにこっそりと準備した。

―――止めろ?
いやいや、ムリムリムリ私は只の一般人です、チキンです!
命を無駄に散らせたくないよ!


マジで切れる5秒前を現在進行形でいく兄に何か言えるわけなく、栞はあっさりと諦めた。
そうこうしている間にその男は静雄にしつこく質問し、―――恐れていた事態が起こってしまった。


「うるっせぇ―――!!」



そして現在に至る。・・・至って欲しくなかった。
現実逃避終了。何てことだ。



話しかけてきた男の勇気というか無謀さ加減は評価するが、相手は選ぶべきだ。
何せ、相手は『池袋最強』の称号を欲しいままにしている兄。
兄にとって不本意な・・・というか不愉快な称号だろうが世間はそう認識しているので撤回は不可能。

ていうか、男と他の一般人・・・?も犠牲になっている。
救急車呼ぶべきかな。でも一体何台?


栞は無表情でそんなことをつらつら考えながら静観している。
兄を落ち着かせようと思っても、それを実行することは躊躇われた。
妹と言えど栞にとって、それは不可能に近い所業だった。


平和島栞は容姿こそ溜息が出るほどの容姿端麗ぶりであるが、如何せん無口無表情無愛想の三拍子であるというのが周囲の評価だ。
しかしそれはあくまで外見の話であって、内面は至って普通(と本人は認識している)であり、チキンな一般人。
いかに転生したとか、成り代わってしまったとか、そういう事を含めても兄の理不尽なまでの暴力を止める術を栞は持っていないし知らない。

故に。
栞は静雄が落ち着くまで待つしかなかった。



  ♂♀



「うっ・・・」
「?」

栞は呻き声がした方へと視線を向けると其処には一人の男―――先程静雄に声をかけてきた男がコンクリートにうつ伏せの状態で倒れていた。


「・・・・・・・・・・・・」

兄をあんな状態にした人物に声をかけるのは何となく気が進まないのだが、放っておくのも気分が悪い。
私も大概の偽善者なのかお人好しなのか。
嗚呼でも人でなしのレッテルを貼られるよりはマシか。

そう思いながら栞はその男の方へと歩み寄るとその場でしゃがみこんだ。


「・・・・・・大丈夫ですか」


大丈夫じゃなかったら救急車を呼びますから兄を傷害罪などで訴えないで下さい。
てか貴方が兄さんに声をかけなかったらこんなことには・・・。

「ぅ・・・ん」

・・・とりあえず意識はあるようだ。

「動けますか」

出来るだけ優しく声をかけてみたのだが聞こえているだろうか。
・・・なんか不安になってきた。とりあえず重症でないことを祈る。

「・・・う、ん。何とか・・・」

そう言って緩慢な動きで起き上がった男が私の顔を見た途端何故か凍りついた。
・・・何かしたっけ。え、私の顔に何かついてるとか?
ちょ、何か喋って下さい頼むから!

「・・・・・・・・・あの、どうかし、」
「君アイドルとか芸能界に興味ないかい!?否、アイドルにならないか!?」




・・・・・・・・・重症では無いようだ―――ではなく。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

  更なる非日常の転機

第2章開幕です。
此処から一気に主人公の日常が大きく変化します。
ていうかキャラとの絡みが少なくてスミマセン。

20120315