刀語×とうらぶネタ2【完成】

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一人の人間の話をしよう。
かつて自分は人間だった。
階段を誤って転落してしまって二十歳を迎える事無く死んでしまうまでは。

何処にでもいる普通の家庭だった。
普通に小学校に通って中学、高校と平々凡々を絵にかいたような人生を送っていたのだ。
間違っても先祖代々ほにゃららだった、という話は聞いた事が無い。

なのに。なのに、だ!

私は死んだと思った。
肩や背中に加えて腰と全身打撲に加えて頭を強打して死んだと思ったんだ。
あまりの痛みにのた打ち回って、ちょっと目を開けてみたら知らない男が目の前にいて。
痛みを忘れて思わずひっと悲鳴をあげた自分は悪クナイ。悪クナイヨー。

暫く茫然としていたけれど、とりあえずその男が刀鍛冶で私の足元にある刀を作った製作者である事は分かった。
そしてどうも私はその刀になってしまったらしい。

・・・いや何でだよ!
人間だったのにいきなり刀ってどういう事だ!
状況を把握しようと何とか辺りを見渡した結果私の兄弟という人(刀)がいて、その人の話を聞くとどうやら今は戦国時代だという。
うん意味が分かりませんね。私もです。

そして色々聞いている内に私の刀としての名前が決定したらしい。
いやもう何でも良いですよ、気分はヤケクソに近いけど。
パパンは私を作った後も黙々と刀(なんか中には刀じゃないものもあったけど)を作り続け、最終的に千本の刀を作り上げたらしい。
ちなみに私は最後から数えた方が早く、彼が作った日本刀の中で最も完成度の高い一本らしい。

らしい、らしいと連呼しまくっているが仕方が無い。実感が無いのだから。


「・・・よし、じゃあ適当に全国歩いて刀をばらまくとするか」


たった一言。

その言葉を境にパパンは私達を全国各地に存在する侍?武士と呼ばれる存在に贈る事になった。
いやいや何でだ!
侍だか武士だか知らないけどそれってあれでしょ人を斬るってことなんだよね嫌だよ私戦争なんて知らない場違いな人間なんだよ!?
あ、今は刀でしたね、じゃなくて!!
ちょ、パパン話聞けええええええ!!まだ私はパパンの元にいたいんだよおおぉぉぉおおおお!!

え?ちょ私本気で何処に行くの、えええええええ!!
か、鉋助けて!!え?無理だから諦めろって?いや諦めたら其処で人生終わりだよ!
いやこの場合、人生じゃなくて刃生だって?うるせーそんな言葉遊びみたいなのに付き合ってられるかあああああ!!





そんなこんなでやってきました、因幡国。
その国の城主である宇練家に私は振るわれるようになりました。

時代が戦国であるという事もあって私も例外なく戦場で人の命を奪った。

人の体から血が噴き出し、崩れ落ちる瞬間が嫌で嫌でたまらなくなって逃げるように瞼を閉ざした。
視界に光が入らなくなったけど少なくとも人が死ぬ瞬間をみる事が出来なくなったからそのままでいる事にした。

宇練家に代々受け継がれてきたある日、私は一万人の兵を相手にした。
いや比喩ではなく。本当に一万人を相手にしたらしい。
私の現所有者がそう言っていた。

え?私が実際に斬ったんだから数えてないのかって?
数えるか!しかも一万人って!数えるのが馬鹿馬鹿しくなる数だよ!?
無理無茶無謀だろ!
というより私よく折れなかったな!普通折れると思うんだけど!ていうか曲がるだろ普通!

「切れ味が全く衰えていないとは、流石"彼"が作った刀だけはある」
「流石は"ありとあらゆる存在を一刀両断にできる、鋭利な刀"でありますな」

褒められても嬉しくないよ!
何で会話が出来ないんだろういい加減気が変になりそうだ!!


あ、でもパパンが褒められたのは単純に嬉しい・・・いや騙されるな私。
いくらパパンの腕が凄かろうとあの人を突き詰めたら否定的な変人だ。
私よりも先に作られた鉋が言うのだから間違いない。

というより"私"ってそんな評価されていたとは知らなかった。
名前が名前だし正直パパンのネーミングセンス無いな、と思った私は悪くないと思うんだ。
ていうか私やほかの兄弟刀が欲しいからって刀狩りするなんて、人間って欲深いなあ・・・一本あれば十分だと思うけどあれか、お上は蒐集癖でもあるのか。なら仕方な・・・いやあるわ。
あーでも兄弟達に会えるのも悪い話では無いなあ。

・・・ま、私一人で何とかなる筈が無いし、諦めるしかないか・・・。

















「私は、尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督、奇策士とがめだ」

そうして、私は運命の日を迎える。
長い間宇練家に仕えていた刃生が終わり、父の刀の一振りとして蒐集されることになってしまったのだ。


  ■■


『―――お?まずはお前が蒐集されたか』
『・・・・・・鉋』
『おー怖い怖い。だがな俺は次にお前が来ると予想していたよ。
何せ俺とお前は互いに相反する存在であり、対でもある。
だから引かれ合うのは自然の摂理、って奴さ』
『・・・・・・』
『それはそうと別れる前とはだいぶ雰囲気が変わったな。

―――お前、何故"目"を閉ざしているんだ?』

これが、私と兄弟であり対であり相対する刀―――絶刀・鉋との再会直後の会話である。



  ■■


『・・・今のこの歴史は間違いであると?』
『らしいぜ。
俺達を蒐集したあの奇策士曰くな』
『・・・鉋、少し離れた間に随分と情報収集が上手くなりましたね・・・』
『気にするところ其処なわけ?
あーまあ元主が忍者って事もあったからその影響か・・・』
『・・・・・・まさかその忍者って真庭忍軍では・・・・・・』
『大正解』
『・・・はあ』

思わずため息をついてしまった私は悪くない。
真庭忍軍。真庭忍軍か・・・かつて主がそう名乗る忍者を一人私を使って斬っていた。
逆さで喋っていたから最初から真っ二つに斬られる直前までよく分からなかった私だったが、打って変わって主は何故分かったのか永遠の謎である。

『それで歴史が改竄、ですか。
改竄されたこの歴史を元に戻そうとでもしているのですか、例の奇策士の御嬢さんは』
『さあな。ま、諸悪の根源がどうも俺達の父であり、その先祖らしいぜ』
『は?』
『もしかしたら何かを知っていた錆白兵を主に持つ薄刀・[[rb:針 > ハリ]]なら俺達よりも詳しいかもしれないぜ?』
『・・・針』

薄刀・針。
"羽毛のように軽く、硝子細工のように脆い、美しき刀"であり、「薄さ」「軽さ」「脆弱さ」に主眼が置かれている。
その為扱いが非常に難しく、下手をすれば折れてしまう完成形変体刀の中で最も扱いにくく、壊れやすいとされている。

その特性故か付喪神としての性格も非常に気難しい。
"彼女"はその事に頭を悩ませた、次の瞬間。


バキン、



『・・・え?』

何かが壊れる音が、我ら完成形変体刀を保存している部屋に響き渡る。

ゆっくりと音がした方へと振り向く。
其処には青い光を灯らせた鬼が罅割れた空間からしっかりと此方を覗き込んでいた。

『ひっ・・・』
『っな、なんだ・・・!?』


ばきばき、と空間が破壊されるという非現実な事に私も鉋も凍り付く。
残念ながらこの部屋には人間はおらず、いるのは実体を持たない付喪神達のみ。
故に誰にも知られないまま侵入を許してしまった。

『はあ?!化け物が鉄の塊である俺達を盗もうっていうのか、ってそれは・・・!』
『え、』

室内で振るうには明らかに不利な薙刀を抱えた鬼はゆっくりと"私"の本体を掴んだのと同時に私の意識も浮遊感を覚えた。

―――あ、これヤバイ。

いつも閉ざされていた瞼を開け、周囲を見渡す。
近くには兄弟刀が何振りか揃っており、変体刀長兄の鉋の焦った顔も鮮明に映し出されていた。

『・・・鉋、どうやら私は此処でお別れのようです』
『はあ!?』


最後に見たのは鉋と・・・どうやらこの騒ぎで起きたらしい、針の慌てた表情だった。


  ■■


「じゃ、おっぱじめるぜぇ!」

開戦を告げる声と同時に響き渡る刀同士が奏でる金属音。
斬って防御してまた斬り伏せて。
加州が辺りを見渡した頃には既に仲間達が他の敵を破壊した後だった。


「・・・お、」

検非違使という新たな敵を倒すと何処からともなく現れる刀。
新たな戦力だったら良いなーと軽く思いながら拾い上げたその刀は今まで見た事が無いもので。


柄も鞘も全てが黒で、試しに刀身を見てみるとこれもまた黒色。
はてさてこんな刀、実装されたと言われていただろうか。

加州が首を傾げながらまじまじと見ていると他の仲間達からも疑問の声が上がる。

「清光、なにその刀?見た感じ太刀だよね?」
「ていうか黒っ!なにそんな刀剣男士いたっけ?」
「お、新種の刀剣か?これは驚きだな!」

「・・・とりあえず主に報告かな?正体不明の刀を持って帰るのって俺達だけで判断するのはちょっとマズイだろうし」
「長谷部ー主に連絡を、」
「もうしてある」
「早!!」






こうして検非違使撃破により保護され、トアル本丸にて顕現される事になる。


「―――私は完成形変体刀十二本が一振り、斬刀・鈍と申します。
生憎山育ちならぬ砂漠育ちの世間知らずなのでご迷惑をおかけすると思いますが平にご容赦を」

「うえええええ刀剣女士ぃぃぃいいい!?」
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