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――お前の干物を買うのも、今日限りにするわ。

 店先で目を伏せ、リャンが呟いた。コウがうろんな目を向けると、分かるだろ? と言わんばかりにリャンは肩をすくめた。

――城は開店休業状態だし、街も閑散として荒れてきてる。このままじゃ商売上がったりだ。おれは別の街に行くよ。街の人間は続々と出ていってるが、お前はどうするんだ?

 コウは問い詰めるリャンから目を逸らした。
 城の象徴であるヒメを失ってから、城への来客はめっきり減ったし、それに伴い街にも人が訪れなくなった。住人たちは店をたたみ、家を空け、いまや城の周りをうろついていた乞食さえ土地を見限る始末だ。
 店に来る客も日増しに減っているのに、コウは街を出ていく気になれなかった。城にはもうヒメもいないし、ここにいる理由もないはずだったが、生まれ育った場所は離れがたいものだった。
 リャンがあっさりと別れを告げたあと、コウは家の裏手に行き、香にするために削られすっかり小さくなってしまった流木を見つめた。もうあの大きな魚の骨みたいだとは到底思えない。ちっぽけな、人間の骨だ。とうとう見つからなかったヒメの骨の代わりだと、コウは考えた。
 店の中で何かが割れる音がして、罵声がつづいた。何事かと思った瞬間、振り向く間もなくコウは川の中へ突き落とされた。
 もがきながら見上げると、がらの悪い男たちが、壺をあさっていた。コウが壺の中に溜めておいた大量の金が目当てなのだった。治安が悪くなった街でコウの噂を聞きつけた輩が、大金を奪いに押し入ってきたのだ。
 水の中で、男たちが握りしめる金と、茶色く染まった干物が揺らめいた。それがコウの見た最後の景色だった。

 夢の中でコウは水の底へゆっくりと落ちていった。
 泳ぎは得意なはずなのに、体がまったく動かない。息ができないのにちっとも苦しくないのが不思議だった。
 辺りはしゃぼん玉に包まれたように、光が刻々と色を変え、現実味を欠いていた。龍宮城に来てしまったんだろうか、とコウはぼんやり考えた。
 水の天井からしなやかな動きで、何かが泳いできた。あの大きな魚だろうか。
 いや、人間だ。でも足が一つしかない。
 人魚姫?
 人魚は沈み行くコウに向かい、手を差しのべた。


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