村のはずれの小さな家に生まれた八番目の子、ハチは、生まれつき蛇を寄せる体質だった。
 何をせずとも蛇、小さく無害なものから凶悪な毒蛇まで、ハチの周りには集まってしまうため、ハチを育てるのには相当な苦労があった。
 貧乏な家ゆえ、いっそ殺してしまおうとしたところ、ハチの有用性を思いついた者がいた。
 村の周りの森にはまだら模様の毒蛇が棲んでいた。この毒蛇、人に噛みつくと危険だが、酒に漬けると良薬になる。毒蛇を捕らえるのに、ハチの特殊な性質を利用しようということだった。
 こうしてハチはかろうじて死を免れた。と言ってもハチの生育環境が改善するということはなかった。
 ハチは蛇の通れないほど目の細かい籠に閉じこめられ、常に蛇避けの煙でいぶされることになった。自分で勝手に外へ出ることは許されず、毒蛇狩りの時にだけ、村の男に連れられて森へ行った。
 高価な毒蛇を捕れる能力があるのに、ハチは家族から半端者扱いされ、籠は玄関の脇に置かれた。冬は凍えるほど寒く、家族の囲む火鉢を、籠の中から恨めしくハチは見つめた。
 ハチの楽しみといえば、籠の隙間から狭い空を見ることだった。小さく切り取られた庭に、季節ごとに咲く花、そこで遊ぶ蝶や小鳥を眺めることだけが、ハチの心をなぐさめた。
 その庭にある日、白い孔雀が現れた。青緑の孔雀は差し入れられた図鑑で見て知っていたから、この白いのは孔雀かとハチは疑った。しかし家長がそう言うからそうなのだろう。家長は白孔雀を庄屋からもらったと言っていた。毒蛇の薬酒を簡単に作れるようになり、村が潤ったので、その報恩であった。とすればハチの功績のはずなのに、家長は自分の手柄のように自慢し、ハチは白孔雀に触れることもできなかった。
 白孔雀は庭にとどめ置かれた。ハチは籠の隙間から孔雀を眺めた。白いとあの独特な目玉模様が見えなくて良いな、とハチは白孔雀を気に入った。
 夜になり、家は寝静まった。ハチはどうしても白孔雀をそばで見たくて、籠を抜け出した。
 少しくらいなら大丈夫だろうと高をくくっていたが、どこからともなく蛇たちはハチに忍び寄った。蛇の動きは何度見ても慣れない。しめやかに這い寄る蛇たちに囲まれ尻餅をついたハチを、助太刀するものがあった。
 足を繋がれていた白孔雀が、その美しい羽を広げ、蛇をすべて散らしてしまった。月光に浮かぶその姿は、話に聞いた都の舞姫のようだと、ハチは陶然と見入った。
 騒がしいので様子をうかがいに来たハチの家族が見たのは、見事に羽を広げる白孔雀の姿だった。孔雀はハチに求愛していた。
 それから白孔雀はハチを蛇から守るようになった。しかしそれは必ずしもハチの自由が約束されたという意味にはならなかった。白孔雀は家の宝として大事にされていたし、ハチは相変わらず籠に閉じこめられた。
 新月の夜、庭で音がしたのでハチがそっとうかがうと、白孔雀を盗み出そうとする者がいた。ハチが家族を起こして知らせると、家長が出てきて泥棒と孔雀を取り合うことになった。孔雀の肉が美味いと聞きつけた泥棒は、貧乏な家に不釣り合いな白孔雀を盗み出し、もっと価値の分かる者に売りつけようとしたらしい。
 二人の男の間で取り合いになっているうちに、孔雀は命を落としてしまった。苦しげな白孔雀にハチは駆け寄り、頬擦りして涙を流した。今までどんなつらい目にあっても泣かなかったハチが、初めて感情をあらわにしたのだった。
 もう守る者のなくなったハチに、幾多の生きた縄が押し寄せ絡みついた。ハチと白孔雀の体は覆い隠され、夜が明けてやっと蛇が去った跡には、何も残っていなかった。



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