夢と現が溶け合ってからこちら、街のいたる所に透明人間が跋扈するようになった。
 透明人間は正確に言うと半透明人間で、輪郭だけがなんとなく見えるけど体の向こう側は透けている。着た服ごと透けて見える。透明なのは人間だけで、動物はちゃんと質感をもって存在している。
 と思いきや、最近では透けている動物も見かけるようになった。主にペットの犬猫。それと学校で飼われているウサギやニワトリ。透明な児童たちが透明なウサギの世話をしている。
 透明な人たちはどこからやってくるかといえば、コンピューターの中からだった。人々はVR空間でアバターを作り、自分は家にいながら街へ繰り出していた。仮想空間はすなわち夢の世界で、夢と現が溶け合った今では、VRの人々が街を闊歩する。
 でも溶け合い方は不完全で、透明な人々はVRを通した視界では好きなアバターでいられるが、現の世界では現実の姿でしかいられなかった。
 そのうち建物さえも透明になった。焦りを感じた私は妹に教えられ、VR空間で動けるアカウントを作った。仮想空間には現実より物が多いと感じられた。現実の物は透けて存在感がなくなり、夢の世界はますます充実していった。
 それでも私がVR空間にログインするのはまれで、相変わらず現の世界ばかりで生きていた。ある時私は現の世界で一目ぼれした。彼女は例のごとく半透明だったが、不透明の私でも現実世界で彼女と何度かデートをすることができた。
 そのうち彼女は私を仮想空間に誘ってくるようになった。
「私はむしろ現実世界で君と会いたいんだけど」
「でもこの私は、本当の私じゃないから」
「現実の、人間の姿をしているのに本当じゃないの? アバターの方が本当だっていうの?」
 彼女は確信を持ってうなずいた。私は首を振り、家へ帰った。
 現はしんとしている。そのうちここはすべてが透明になるんだろう。今のところは不透明な私は、まだ不透明なペットの猫を抱えて眠った。夢の中にも逃げ場所はないけれど。



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