生徒の模範となるべき生徒会役員の僕が、なぜこんな場所に立っているのか、自分でも不思議に思う。
 でも一人になれる場所としてここは最適だと思う。
 街外れの丘の上にある、廃遊園地。
 昔、家族で行ったことがある、と父親が言っていたことがあったけれど、幼すぎたのか記憶していない。
 とりあえずここがこの街の中で一番ひとけのない場所だということが分かる。自分でも不可解なのは、知らず知らず鎖の張られた入口を抜けて廃墟の中へと不法侵入してしまったことだ。
 入口は入って下さいと言わんばかりに、ゆるく閉鎖されているだけだった。内へ無断で入り落書きしていった不届き者たちと同じく、僕も好奇心が強かったということだろう。
 丘の下を覗き込むと、沈んだ陽の代わりに街が明かりをつけ始めている。
 対して遊園地は落ち窪んだように暗い。本当にかつては煌々として賑わっていたのか、疑いたくなる。
 簡単に忍び込めてしまったので、成り行きのまま歩いていく。周りを囲む遊具は意外にもあまり傷んでいなかったが、長い間放置され、冷たく固まり不気味でさえあった。
 中央広場はがらんとしていた。倒れたベンチの間を、乾いた風が吹き抜ける。
「!」
 不意にスポットライトのような光が僕を照らした。侵入したのがばれたのか、と血の気が失せたが、耳に飛び込んできたのは警告音ではなく、懐かしさを感じさせるアコーディオンの音だった。
 思わず瞑っていた目を開けると、赤や黄色の電飾がちかちかと瞬いていた。さっきまで死んでいた遊具たちが、光によって命が吹き込まれたようにくるくると動き始める。朽ちていたはずなのに新品みたいにぴかぴか輝いて見える。
「待ってたよ、壮亮(そうすけ)」
 僕の名前を呼ぶ声があった。ゆらゆら揺れる明かりを背にして、一人の少女が立っていた。
 少女は僕より年下に見える。黄色いワンピースを着て、長い髪をなびかせ、白く細い脚で立っていた。
 少女は僕の方を真っ直ぐ見つめ微笑んでいた。見知らぬ顔なのに、なぜだろう、会ったことがある気がする。
「待ってたって……誰ですか?」
「リリイ」
 名乗られたが、そんな外国人風の名前、覚えてはいない。
「壮亮が来てくれるの、ずっと待ってたよ。一緒に遊ぶって約束」
「そんな約束、した覚えなんてない」
「したんだよ。ずっと前に」
 ずっと前ということは、幼い頃だろうか。親に連れてきてもらったこの遊園地でのことだろうか。訝しく、またこの少女を気味悪く思ったが、リリイの目は抗いがたい期待に満ちていた。
「まずは、何して遊ぶ?」
 戸惑う僕をよそに、リリイが無邪気に尋ねる。僕は投げやりに答えた。
「ジェットコースター」
「最初から、刺激的だね」
 リリイは僕の選択をそう評して、僕の手を取り歩き出した。




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