その国の空は始終暗く、小さな光はいくつか瞬いていたが、大きな光はとうの昔に失われたままだった。
 大きな光はその昔、地の底へ落とされたきり、戻ってこないのだという。
 アヴという少年がいた。アヴは金も身分も勇敢さも知恵も持ち合わせていなかったが、向こう見ずで破天荒だった。愚者のようでもあったし、大胆な冒険者のようでもあった。
 アヴは空に大きな光が無いのが不満だった。こんなにずっと暗いままだと、気持ちまで暗くなっちまう。
 地に沈んだ大きな光を取り戻すために、アヴは人間や、それだけでなく、森の動物や植物たちにも誰彼構わず、地下の国への行き方を尋ねてまわった。
 誰も地下の国への行き方を知らなかったが、最後にアヴがみすぼらしく小さなねずみに尋ねると、ねずみは地下の国への入り口を知っていると言った。
 ねずみは、
「私に、地下の国にある湖の水を持ってきてくれるのなら、地下の国への入り口を教えましょう」
 と言った。アヴはきっとそうすると約束した。
 ねずみが案内した入り口は何の変哲もない木の根元だった。根元には穴があいていたが、その先はとても歩けないほどの急な坂が続いていた。
 坂の表面にはからからに乾燥した根がびっしりと張り巡らされていた。枯れ木はからからの声で、
「私の枯れた根を潤してくれるのなら、私の根をつたって穴を降りても良い」
 と言った。アヴはきっとそうすると約束した。
 枯れ木の根をつたって穴の底へ降りると、地下の国の入り口に盲(めしい)の老人が座っていた。盲の老人は、
「私の目を見えるようにしてくれるのなら、この闇の薬を持っていっても良い」
 と小瓶を示して言った。アヴは、何かの役に立つかもしれないと、闇の薬をもらい、老人の目を治すと約束した。
 地下の国の真ん中には、大きな湖が広がっていた。湖のほとりには、まばゆいばかりに光り輝く白いくじらが鎮座していた。その光はアヴの目を潰してしまいそうなほどまぶしく、辺りの闇をいっそう濃くしてしまうほどに明るかった。
 白いくじらの周りには、白いくじらをひたすら崇めている地下の住人たちがいた。地下の住人たちは元々は地上の人々で、くじらを崇めるために地下に降りてきたのだった。
 白いくじらは水底から響いてきたような深い声でアヴに語りかけた。
「わしは元は地上にいた黒いくじらだったのだが、ふとした拍子に大きな光を飲み込んでしまったばかりに体が重くなり、この地に沈みこみ動けなくなってしまったのだ。なんとかしてほしい」
 アヴはそこで、何かの役に立つと思ってとっておいた、老人からもらった闇の薬を、白いくじらに飲ませてみた。
 すると白いくじらは大きな光を吐き出し、元の黒いくじらに戻ったのだった。大きな光はずんずんと地上へのぼっていき、地下の住人たちはくじらのことなどすっかり忘れ、のぼっていく大きな光を慌てて追いかけていった。
 黒いくじらも、元に戻れたことを喜び、軽くなった体で空へ浮かんでいった。空高くのぼった黒いくじらは、雷神になった。
 アヴは空(から)になった小瓶に湖の水を詰め、地下の国の入り口にいた老人の手を引いて地上へ出た。
 果たして、大きな光は空の中に浮かび、すべてを照らしていた。地上はもう闇の世界ではなかった。
 光を浴びたおかげで枯れ木もつやつやとよみがえり、盲の老人の目もものが見られるようになった。
 アヴがあの小さくみすぼらしいねずみに、汲んできた湖の水を飲ませると、ねずみはすらりとした美しい少女になった。アヴと少女は、大きな光と小さな光がめぐる地上でいつまでも幸せに暮らした。







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